#89『I Got Rhythm~音楽が生まれる時』 選曲リスト

今月のテーマ:「拡張する現代ジャズシーン」 (第1回:USジャズの最前線) パーソナリティ:柳樂光隆

<番組のトーク・パートと選曲リスト>

 今月は、「拡張する現代ジャズシーン」と題して、現代のジャズシーンに焦点をあててお送りします。今回のテーマは「USジャズの最前線」です。

― 今のアメリカのジャズは、ロバート・グラスパー以降、さらに音楽の融合が進んでいます。
中でもヒップホップ育ちのミュージシャンたちが、ラッパーやヒップホップのプロデューサーとコラボレーションしたり、インディ・ロックやエレクトロニック・ミュージックのアーティストと一緒に音楽を作ったりしていて、既にジャズとは呼べないような、それでいてジャズミュージシャンにしか作れないような音楽がたくさん生まれています。

― まずは、その中でも特に重要なミュージシャン。ジャズ作曲家で、シンガーソングライターで、ベーシストのサンダーキャットの曲をお聴きいただきましょう。

M1「Innerstellar Love」/ Thundercat
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとヴァージョンが異なる場合があります。

 アルバム『It Is What It Is』からの1曲。カマシ・ワシントンやフライング・ロータスが参加した、スぺイシーな楽曲です。
 サンダーキャットの本名はステファン・ブルーナーで、フライング・ロータスやスイサイダル・テンデンシーズ、ケンドリック・ラマーの作品への参加で知られているベーシストです。
 2017年にリリースした3枚目のアルバム『Drunk』で、ケニー・ロギンスやマイケル・マクドナルドといったポップスターと共演して、そのポップな音楽性が高い評価を得ました。

― 続いてはご紹介するのは、マルチ・インストルメンタリストでプロデューサー、サム・ゲンデルです。

M2「Afro Blue」/ Sam Gendel
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとヴァージョンが異なる場合があります。

 サム・ゲンデルはLAを中心に活動しているミュージシャンで、様々な楽器を演奏しますが、主に演奏するのはサックスです。この曲のシンセサイザーのように聞こえる音は、サックスの音にエフェクトをかけ、音を変調させたもので、この不思議な音色で、モンゴ・サンタマリアの名曲「Afro Blue」を演奏しています。
 このアルバムでは他にも、マイルス・デイヴィスの「Freddie Freeloader」やチャールズ・ミンガスの「Goodbye Pork Pie Hat」など、ジャズの名曲を不思議なアレンジで演奏しています。

― 次は、ニューヨークで最も注目されている若手のサックス奏者の一人、イマニュエル・ウィルキンスです。

M3「Ferguson - An American Tradition」/ Immanuel Wilkins
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとヴァージョンが異なる場合があります。

 現在、アメリカ(特にニューヨーク)では20代前半の若いミュージシャンが注目を集めており、イマニュエル・ウィルキンスもその一人です。
 この曲は、「ファーガソン」というタイトルからもわかるように、2014年にミズーリ州ファーガソンで起きた、18歳の黒人少年、マイケル・ブラウンが白人警官によって射殺された事件をテーマに扱っています。
 最近の若いジャズミュージシャンは、社会的なメッセージを曲に乗せることが増えていて、人種問題や男女の権利の平等など、様々な社会問題に対する意識が高いのも特徴です。

― 続いては、シカゴ出身で、現在LAで活動しているジャズギタリスト、ジェフ・パーカーをご紹介します。

 彼は元々、ポスト・ロックというジャンルの代表的なバンドでもある”トータス”のメンバーでしたが、並行してジャズギタリストとしても活動していました。そのジェフ・パーカーがシカゴで活動している中で、シカゴのジャズシーンで注目されている新興のジャズレーベル、インターナショナル・アンセムと出会い、そこからアルバムを出したことが、現在、シカゴのシーンを盛り上げることに一役買っています。

M4「Go Away」/ Jeff Parker
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとヴァージョンが異なる場合があります。

 ポスト・ロック・バンドに参加しながらも、ヒップホップのビートを自分で作っていたジェフ・パーカーは、ポスト・ロックとヒップホップ、ジャズをすべて結びつけたような音楽を作っています。そんな彼の音楽性は、高い注目を集め、インターナショナル・アンセム周辺のジャンルの一つの特徴にもなっています。

進行:柳樂光隆(音楽評論家)
 島根・出雲生まれ。21世紀以降のジャズをまとめた、世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に鼎談集『100年のジャズを聴く』など。 Instagramで「24時間で消えるディスクレビュー」などを展開。現在のジャズ・シーンを俯瞰的に捉えて発信していく音楽評論家。