今月のテーマ:「拡張する現代ジャズシーン」
(第2回:新世代のジャズヴォーカル)
パーソナリティ:柳樂光隆
<番組のトーク・パートと選曲リスト>
今月は、「拡張する現代ジャズシーン」と題して、現代のジャズシーンに焦点をあててお送りします。今回のテーマは「新世代のジャズヴォーカル」です。
― その昔、表現力が豊かなビリー・ホリデイや、”スキャット”という高度な技術を駆使して歌ったサラ・ヴォーンやエラ・フィッツジェラルドのような、ジャズヴォーカリストがいました。その後には、声をまるで楽器のように扱い、声で出せる音の可能性を追求した、ボビー・マクファーリンのような、ちょっと変わったジャズヴォーカリストもいました。
そういった様々な先人のジャズヴォーカリストが切り開いてきた表現や技術を身に着けた上で、ヒップホップやロック、R&B、クラシック、ワールドミュージック等、様々な音楽を融合しながら、新しいジャズを追求している、新世代のジャズヴォーカリストが、近年たくさん出てきています。
― 最初にご紹介するのは、男性ヴォーカルのマイケル・マヨです。
彼はまだアルバムを出していませんが、2020年にリリースされた、ベン・ウェンデルというサックス奏者のアルバム『High Heart』に参加しています。
M1「Burning Bright」/ Ben Wendel
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとヴァージョンが異なる場合があります。
ベン・ウェンデルのアルバム『High Heart』から、マイケル・マヨが参加した1曲。ベン・ウェンデルの速くて難解なサックスソロを、そのまま声に置き換えることができるマイケル・マヨのヴォーカル技術は、かなり驚異的と言えます。
― 続いては、女性のジャズヴォーカリスト。アントニオ・サンチェスの作品に欠かせないヴォーカリストとして知られている、タナ・アレクサをご紹介します。
M2「Ona feat. Rosa Vocal Group」/ Thana Alexa
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとヴァージョンが異なる場合があります。
タナ・アレクサはニューヨーク生まれで、両親の出身地であるクロアチアで育ったジャズヴォーカリストです。この曲は、” Rosa Vocal Group”というクロアチアのヴォーカルグループが参加した、エキゾチックな曲になっています。クロアチアはブルガリアに隣接しているということもあり、ブルガリアン・ヴォイスのような、不協和音と不思議なハーモニーを使ったコーラスを、そのまま自分の曲に取り込んだ、ちょっと変わった曲になっています。
この曲が入ったアルバムは、2020年のグラミー賞にノミネートされており、今後もさらに飛躍が期待されるジャズヴォーカリストです。
― 次は、高度なスキャットを駆使する、ジャズメイヤ・ホーンを紹介します。
M3「Central Park West (feat. Jazzmeia Horn)」 / Lakecia Benjamin
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとヴァージョンが異なる場合があります。
女性サックス奏者、ラケシア・ベンジャミンが、ジョン・コルトレーンをトリビュートして作ったアルバムに、ジャズメイヤ・ホーンが参加した1曲。
ジャズメイヤ・ホーンは、あらゆるコンペティションで優勝をしており、2017年にはファーストアルバム、『A Social Call』でグラミー賞にノミネートされています。文句のつけようのない技術と表現力、スター性を兼ね備えていると言えます。
― 最後は、セシル・マクロリン・サルヴァントの歌をお聴きください。
M4「Left Alone feat. Cécile McLorin Salvant」/ Jimmy Heath
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとヴァージョンが異なる場合があります。
サックスの巨匠、ジミー・ヒースの遺作となったアルバムに、セシル・マクロリン・サルヴァントが参加した1曲。ビリー・ホリデイ的な、ヴォーカルの表現力の豊かさを最大限に発揮している1曲と言えます。
進行:柳樂光隆(音楽評論家)
島根・出雲生まれ。21世紀以降のジャズをまとめた、世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に鼎談集『100年のジャズを聴く』など。 Instagramで「24時間で消えるディスクレビュー」などを展開。現在のジャズ・シーンを俯瞰的に捉えて発信していく音楽評論家。