声優界随一のサイクリスト・野島裕史が、自転車をテーマにお届けしている番組「サイクリスト・ステーション ツアー・オブ・ジャパン」。8月12日(木)〜8月17日(火)の放送は、野島裕史のサイクルコラム「自転車ロードレースを振り返って」をお届けしました。
パーソナリティをつとめる野島裕史
◆野島裕史、東京五輪のロードレースを総括
野島:東京2020オリンピック男子ロードレースのコースの総距離は、約234kmととても長く、ツール・ド・フランスなど三大ツール(グランツール)のなかでも、こんなに長いコースは滅多にありません。しかも獲得標高が約4,865mということで、富士山の標高を超えているという非常に過酷なレースでした。
東京・武蔵野の森公園をスタートして、富士山のほうまで行って最終的には、富士スピードウェイでゴールなんですけど、その途中で勝負どころになったのが、最大斜度18%の激坂・三国峠。2019年の山中湖サイクリング・ファンツアーで、僕も実際に通ったところだったので、“これは見逃せない”と思って、選手たちがのぼって行くのを見たんですけど、さすがに異常な速さではなくて、本当にキツそうにのぼっていました。
当然、僕なんかよりは速いんですけど、やはりあの斜度18%の激坂は、プロ選手でもキツいんですね。しかも200km近くを走ったうえでの激坂ですから、相当過酷だったと思います。
優勝したのは、エクアドル代表のリチャル・カラパス選手で、「ツール・ド・フランス2021」でも総合3位の成績を収めていました。ちなみに、新城幸也(あらしろ・ゆきや)選手は35位、増田成幸(ますだ・なりゆき)選手は84位という結果でした。
残念ながら、日本ではマイナースポーツということで、地上波のテレビではオンエアされておらず、「gorin.jp」という民放テレビ局のオリンピック公式動画サイトで観ることができるという、放送自体も非常にマイナーだったんですけど、「#自転車ロード」がTwitterのオリンピックトレンド1位になるぐらい、おもしろいゲーム展開でしたね。そして、景色がすごくよかった! 地上波で中継してほしかったと思うぐらいにとても素晴らしい映像でした。
僕が特に気になったのは、女子ロードレースの個人です。コースの総距離は137kmと(男子に比べ)若干短縮されているんですが、日本からは與那嶺恵理(よなみね・えり)選手と金子広美(かねこ・ひろみ)選手が参加しまして。金子選手は、アシストという形だったんですけど、40歳という年齢で過酷な競技に出場するのはとても素晴らしいなという印象を抱きました。
なにより僕がおもしろかったのは、優勝したオーストリア代表のアナ・キーゼンホファー選手ですね。彼女は、アクチュアルスタート(競技開始地点)の是政橋(これまさばし)から逃げ始めたので、“どうせすぐ集団につかまるだろう”と思っていたら、なんと最後まで独走して金メダルを獲得してしまったという。これは“珍記録”と言ってもいいぐらいのおもしろい出来事でした(笑)。
彼女の独走の理由は、集団走行があまり得意ではなかったからというもの。しかも普段は数学の研究者として数々の論文を発表していて、コーチも付けていなければ監督もいない完全に個人で出場したアマチュア・ライダーなんですが、数々の並み居るプロを退け、金メダルを獲得したことに本当にビックリしました。
今回の東京2020オリンピックの自転車ロードレース、僕個人としては、ツール・ド・フランスを走る世界のスター選手が、日本の風景のなかを走っている姿を画面を通してパッと観たとき、ハリウッドスターが日本でロケをしたハリウッド映画を観ているかのような不思議な感覚がありましたね。
日本も、今大会のような(豪華な)撮影チームで中継すれば、ツール・ド・フランスに全然負けない素晴らしい映像、風景だと感じました。神社の鳥居をくぐるところはすごく印象的でしたし、かと思えば日本でお馴染みのチェーン店も観えて、そういった意味では、自転車ロードレースは東京2020オリンピック全種目のなかで、最も日本の風光明媚な自然や建物を全世界にアピールできた種目なんじゃないかなと思いました。
次回8月19日(木)〜8月24日(火)の「サイクリスト・ステーション ツアー・オブ・ジャパン」は、夏の風物詩(!?)「信じるか信じないかはあなた次第……本当にあった真夏の自転車怪談」をお届けします。どうぞお楽しみに!