今年のスポーツ界の顔、スポーツ界を超えて世界を魅了した、アメリカメジャーリーグで大活躍した、大谷翔平選手の特集コンテンツ「SHO TIME AuDee」。
大谷選手ご本人はもちろん、大谷選手が所属するエンゼルスのチームのみなさんの貴重なインタビューや、私、赤木ひろこが取材して感じたことなどを交えながら、大谷選手の魅力を、10回にわたってお届けしていく。
一回目のテーマは「大谷翔平選手がアメリカの宝になった時」。
MLBコミッショナー特別表彰のサプライズ会見
日本時間10月27日の早朝、The Great Shohei Ohtani is in the building.
と、ニューヨーク・タイムズのデビッド・ヴァルトスタイン記者が、ツイートした。
濃紺のスーツ姿、明るい水色のソールの靴を履いた、大谷翔平選手が、ある建物に入ろうとしている写真が添えられている。
この日は、ワールドシリーズ初日。ヒューストンのミニッツメイドパークで、アストロズ対ブレーブスの一戦目がまもなく始まろうとしていたが、それよりも、大谷選手のことが気になってしょうがない。
そんな時、MLBのライブスペシャルでは、画面の中央に大谷翔平選手、両サイドに、ロブ・マンフレッドコミッショナーと水原一平通訳の姿が映し出された。
「コミッショナーズ・ヒストリック・アチーブメント・アワード(MLBコミッショナー特別表彰)が行われるという。マンフレッドコミッショナーは、「すべての面で秀でていた彼は、世界中の人々を魅了した。MLBとして彼が残した驚くべき2021年の功績を表彰したい」と称え、大谷選手は、「毎年ある賞でもないですし、光栄なことだと思います。自分でいいのかなという思いもありますけど、本当に嬉しく思っています」と、感謝と共に喜びを伝えた。
それにしても、ユニホーム姿でプレーしている時もそうだが、堂々としたスマートな立ち振る舞いと、笑顔は、本当に素晴らしい。日本人としていつも誇らしく感じる。
さて、この会見は、完全にサプライズで行われたそうで、ワールドシリーズの取材中だった記者の方々も、プレスボックスのモニターを見て気がつき、慌てて、会見場に集まったのだとか。
それでは、ヴァルトスタイン記者は、このツイートのスクープ写真を、いったいどのようなシチュエーションで撮ったのだろうか、本人に聞いた。
「純粋にラッキーだった。ワールドシリーズ取材のためにヒューストンを訪れ、ミニッツメイドパークの周辺を歩いていたら、大きな黒塗りのSUVが停まって、警備員が3人、通行する人が車のドアを遮らないように、ガードしたので、特別な人だ!と思い、待って見ていた。ヒューストンの市長か、コミッショナーかもしれないと思っていたら、なんと、大谷さんが現れて、本当に興奮した」と、教えてくれた。そして「大谷さんの話をするのはすごく楽しいからいつでも言って」と、付け加えた。
数字的な偉業はもちろんすごいこと、しかしそれ以上に、想像を超えるパフォーマンスは、初めて見るものばかり、ワクワクさせられた。目が離せなかった。楽しかったし、すごいエネルギーをくれた。カラフルな世界を見せてくれた。そして確かに、ヴァルトスタイン記者が言うように、大谷選手の話をして共有することがまた楽しいと感じる。
少し時を戻して、2018年、大谷選手がメジャーリーグに移籍したばかりの1年目の5月、私は、大谷選手が初めてニューヨークのヤンキー・スタジアム入りした時に、取材していた。ヤンキースといえば、ベーブ・ルースも所属していたチーム、そして、大谷選手に、かなりラブコールを送っていたチーム。年に1回、エンゼルスがニューヨーク入りをする、そして大谷選手がヤンキー・スタジアムに現れるということで、待ち構えたカメラの長い放列ができた。
大谷選手が打撃練習を始めると、ヤンキースのアーロン・ジャッジのユニホームを着た7歳くらいの少年が、「オータニ、オータニ!」と一生懸命に、呼び続けた。
打撃練習を終えた大谷選手は、にこやかに、少年に歩み寄り、手帳と、ボールにサインをして、写真撮影に応じた。
少年の顔は、笑顔炸裂。一緒にいた大人も、大興奮で、もらったサインを一緒に見ては大喜びしていた。凄まじい人気だった。
辛口で厳しいと評判のニューヨークファンからは、「とても楽しみ」という声もあれば、一方で、「二刀流、本当にできるの?」と、様々な声が上がっていた。
しかし、4年目の今年、そんな懐疑的だった人たちのことも見事に、良い意味で裏切り、「まるでブロードウェイを見ているようだ」と、ニューヨークらしい表現で称える人もいた。まさに感動の渦に巻き込んだ。
アメリカの宝になった瞬間
コロナ禍で、出国、入国が簡単ではない今年、ワクチン接種やPCR検査など様々なプロセスを経て、ようやく、レギュラーシーズン終盤の9月半ばに、現地ロサンゼルスに飛んで、エンゼル・スタジアム・オブ・アナハイムで取材することが叶った。
そして9月19日(日本時間20日)、私は震える瞬間に出会った。
オークランド・アスレチックス戦、先発のマウンドに上がっている大谷選手、2本のソロホームランを許し、2点ビハインドで迎えていた8回表。四球・申告敬遠・死球、とヒットなしでランナーをためた。2死満塁のピンチ。すでに球数は100球を超えていて、バッターはこのゲーム4回にソロホームランを放っているチャップマン。
そんなピンチの状況の中で、沸き起こったのが、MVPコールだった。
7回表のすべてスプリットで3者連続三振に取った時の声援よりも、さらにさらに大きくなっていた。どこまでも冷静沈着な大谷選手は、そのMVPコールを背負って、この日最速の99マイル(約153.9キロ)をマークし、最後は、スプリットで空振り三振!マウンド上で、雄叫びをあげ、右手拳を握りしめて、力強くガッツポーズ!
スタジアムがひとつになり、MVPの大合唱の中、大谷選手が平然と動揺することなく、気迫たっぷりにバッターを三振に切って抑えた、あの瞬間、あの光景、そしてあの観客の大声援は、忘れられない。
老若男女、人種、関係なく遥か極東の国から海を渡りやってきた、ひとりの27歳の男に、声をふりしぼり歓声を送っている。オリンピックでもありえない光景。まさにアメリカの宝になったのだ、と知った。
未来への46号ホームラン
10月3日(日本時間4日)、シアトルのT-モバイル・パークで行われたマリナーズ戦が今季の最終戦だった。ポストシーズンをかけて戦っているマリナーズは1ゲームも落とせない状況。
「変わらず、一打席一打席、自分の打席を最後までしたいなと思っています」
試合前の会見でそのように語った大谷選手は、一番DH、先頭打者で登場。47000人の超満員の前で、いきなり弾丸ライナーで右翼スタンドへ、46号ホームランを放った。
ダイヤモンドをまわって、拍手で讃える三塁側ベンチの仲間のもとに向かう前に、感謝を示すかのように、人差し指を掲げながら天を仰いだ。
今、ひとりのサムライがアメリカンドリームを開拓する第一歩を、正に踏み出し、世界のレジェンドになっていく未来が見えた。
そう思わせるくらいに、大谷翔平という唯一無二の存在は、心に強烈なインスピレーションを与えた。
今シーズンの最終戦は、勝って終わった。敵地のフィールドで、1年間戦いを共にしたチームメイト、マドン監督やコーチ、球団関係者、ひとりひとりと、抱き合った。2021年のフィナーレを感謝とともに締めくくり、ファンの声援に応えながらグラウンドを後にした。
――さて、オフは新たな試みやトレーニングを取り入れることはあるのだろうか?
「基本的な流れは一緒だと思います。トレーニング自体は、もっとハードなものにしたいと思いますし、まだまだ上に行けると思っているので、今年以上のパフォーマンスが出せるようなそういうオフシーズンにしたいと思っています」
――そして注目されている、ア・リーグMVPの発表。MVPレースに名前が上がっていることに関しては?
「まずは最後まで健康で、何回も言っていますけど、健康で終わりたいなということが一番かなと、まあ自分の評価は自分ではしないと決めているので高く評価してもらえることは光栄なことだと思っています」
2021年のショータイム、最後の最後まで魅せてくれた。
フィナーレはまるで思い描く未来を予言するかのようなホームラン。
時が経てば、大谷選手がどこに行き着くのか、大谷選手の語る究極は何かがわかる。
そして今、確実に言えること。
大谷翔平の未来は、燦々と輝いている。
次回は「世界を魅了した大谷選手の進化の秘密」に迫る。
赤木ひろこ(メジャーリーグベースボール・リポーター)
「SHO TIME AuDee」#1
音声版は
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