ゲスト:森田剛・長久允 (1) - 映画『DEATH DAYS』について

自分が死んでしまう日「デスデイ」を、生まれたときから皆知っている世界───

昨年末、大晦日をカウントダウンするような形で公開された短編映画『DEATH DAYS』(デスデイズ)。

ここでは、キャストの森田剛さん、監督・脚本の長久允さんをお迎えしたオンエアのもようを掲載します。映画『DEATH DAYS』について、そして森田剛さんが立ち上げた新事務所「MOSS」についてのお話、箭内道彦が感じている森田剛さんの魅力など、全3回でお送りします。



(2022年1月29日オンエア「風とロック」より)


箭内 「風とロック、箭内道彦です。森田さん、長久さん、よろしくお願いします。」

二人 「よろしくお願いします。」

箭内 「もり…森田剛だ〜!って感じなんですけど、実際にお会いできてなくて、Zoomの画面上で会ってます(笑)」

森田 「(笑)」

箭内 「『DEATH DAYS』の話をする前に、森田さん、独立された、っていう表現でいいんでしょうか?」

森田 「はい。」

箭内 「やっぱり挨拶のときとか皆さんそういう話になります?"どうですかー"とか"儲かりまっかー"とか、そういう感じになるんですか?」

森田 「"儲かりまっかー"はないですけどね(笑)」

箭内 「儲かってる感じしないもんね!(笑)」

森田 「でも、そうですね。"どんな感じですか?"っていうのは聞かれますね。」

箭内 「なんか、儲かってる感じがしない独立って…全然悪い意味じゃなくて、すげー素敵だなって見てます。」

森田 「ありがとうございます。」

箭内 「『DEATH DAYS』だって、儲けようと思ったら儲け方もっとあるじゃないですか。」

森田 「教えてください(笑)」

箭内 「わかんないけど(笑)そうじゃなくて、いまこれをこの形で届けるべきだっていう……なんていうのかな。柔らかな意志を感じるっていうか。それがすごくいいなと思って。後々ききたいこともいっぱいあるんだけど、"どうしてこういうことしたんですか?"って言われるのって、一番の褒め言葉なんだよね。」

森田 「ああ、そうですね。」

箭内 「みんな世の中の人たちは、なぜだかわからないものが怖くてしょうがないから。それをいまやれている大人っていうのは、いいもんだなって思いながら『DEATH DAYS』を拝見しました。

えっと、この番組は、普段進行台本みたいなものは一切無いままやっているんですが、今回3週間分の進行台本が届いてちょっと驚いてます。今夜からなんと3週連続で、3人で放送していこうと思っています。

素晴らしいゲストが来てくれました。俳優の森田剛さんと、映画監督の長久允さん。お二人が昨年末に、大晦日をカウントダウンするような形で公開した映画『DEATH DAYS』。これほんと面白いんです。みなさんご覧になっているでしょうか。この話を中心に、いろんなことを聞いていきたいと思っています。

まず、どんな感じですか?っていうのを聞いていいですか?森田さん。どんな今日この頃ですか?」

森田 「はい、先ほどおっしゃっていただいた、意思表示というか。芝居がやりたい、表現したいということで今回長久さんと一緒に短編映画という形で『DEATH DAYS』っていう作品をつくらせてもらったんですけど。」

箭内 「じゃあちょっと、長久さんにも。」

長久 「はい!」

箭内 「『DEATH DAYS』の監督であるのと同時に、まあ、森田さんは自己紹介なんか絶対いらないぐらいの存在ではありますけど、長久さんは森田さんまでは有名じゃないと思うので、知ってる人はもうみんな大好きだし知ってる監督だけど、少し自己紹介がてら……」

長久 「はい、長久允といいます。もともとずっと広告代理店でCMをつくっていた人間なんですけど、5年くらい前に『そうして私たちはプールに金魚を、』という短編をつくりまして、そこから『WE ARE LITTLE ZOMBIES』っていう映画だったり、芝居・舞台の方をやってみたりしていて。で、今回森田さんに誘っていただいて、『DEATH DAYS』という作品を世に発表しました。脚本と監督をやっております。…髪が長いです。よろしくお願いします。」

箭内 「はい(笑)よろしくお願いします。進行台本の最初の質問案に〈『DEATH DAYS』ってどんな映画?〉ってあるんですけど、だいたいふつう映画って、公開前に特報っていうのが出て。まず『DEATH DAYS』の特報を見てびっくりしました。」

長久 「なんの情報も入ってないやつですね(笑)」

箭内 「なんの情報も、最後まで入ってなかったですね(笑)」

長久 「そうですね(笑)石橋静河さんと森田さんがダンスしているだけのところにロゴが入るだけ、っていう。」

箭内 「これもCMのプランニングを僕もしてますけど、してる人間からすると、なかなかクライアントには通りづらいものだけど、やっぱりそういうところからも違ってるわけでしょ?」

長久 「そうですね。"こんなのどうですか?" って森田さんに見せて、"あっ、いいじゃない" ってなったんで、そこの合意だけで世の中に出せるので(笑)"普通の予告編は嫌だよね" って話もあって。でもそれこそ、広告でいう『箭内イズム』かなって思ったりはしてるんですけど。」

箭内 「またまた!(笑)俺の話はいいんですよ(笑)」

全員 「(笑)」

箭内 「この『DEATH DAYS』って、すっごくいい題材でありアイデアであり、とっても大事なことじゃないですか。だけどそれをすごく、たった3本のなかに…3本だと45分かな。その中に起きる僕らの中の変化とか揺さぶられ方はとてつもないなと思って。尺に対する革命でもあるなと思いながら観てたんですけど。これ改めて森田さんから、どんな映画なんですか?って話してもらってもいいですか?」

森田 「そうですね、誕生日とかみんなにあるように、それぞれ "デスデイ" っていう死ぬ日が決まっている、っていうお話なんですけど。簡単にいうとですね(笑)」

長久 「簡単にいって。笑」

箭内 「西暦何年のその日かっていうのは決まってない、っていうのがまた、ね。」

森田 「そうですね。今年なのか、来年なのか、10年後なのかわからないんですけど、とにかく日にちだけがわかっている、っていうお話ですね。」

箭内 「これは、みんなが平等に訪れるものだから、だけど、案外こういう話ってなかったですよね。監督、どっかにはあるんですか?似た話が。すごい見つけ方だな、と。」

長久 「そうなんですよ。この物語を思いついたんですけどすごくスタンダードな設定なので、被っているものがあるんじゃないかと思って一応探してみたんですけど、無くて。死んだ日をループする話、自分が死ぬのがわかっててどう生きるか、って話はよくあるんですけど、『DEATH DAYS』に似てるような設定は無いので、めちゃくちゃ強い新しい物語が、まさか現代につくれるとは思ってなかったので、びっくりしてます。」

箭内 「ほんとですよね。これ、どういうきっかけでどんな風につくられていったかって知りたいんですけど、さっき "森田さんが誘ってくれて" って長久さんいってたけど、まずなんでこれをつくろうと思って、なんで長久さんを誘ったんですか?森田さん。」

森田 「映画をとにかく撮りたかったんですよね。それで長久さんの作品をそれこそYouTubeで観て、いままで自分が観たことないものだったし、そこで自分もその世界に入りたいなって思って。電話番号を調べて。」

箭内 「え〜!」

長久 「(笑)」

森田 「電話したんですよね(笑)で、そのときたしか留守電になってて。留守電に”森田です” “ちょっとお話があるんですけど…”っていうことで残して。」

長久 「ドッキリかと思いましたよ(笑)」

箭内 「ねぇ。」

森田 「で、すぐ折り返しがありまして。"ちょっと会ってお話したいんですけど" ってところからスタートしたんです。」

箭内 「もうなんか、普通のきき方になっちゃうけど、それ聞いて "ドッキリかと思った" っていってたけど、長久さんは…」

長久 「そうですね、僕って映画界でいうとちょっと変わった位置にいたりして、すっごくメジャーなところにいるわけじゃないので、声がかかるとは思わずに暮らしてたりするところに、突然そんな留守電がかかってきたので、森田さんのそこを知ってていいと思ってくださってるっていう、選ぶ目線に、まずびっくりしました。どうして僕を選んだんだ、って思ってびっくりして。まあシンプルに嬉しかったです。その留守電は保存してあるんで、これ終わったらまた聴こうと思ってます(笑)」

全員 「(笑)」

長久 「これは消さないでおこうと思って(笑)」

箭内 「せっかくだからここでオンエアさせてほしいような気もするし、でもなんか聴いちゃいけないもののような気もするし(笑)でも何かが始まる瞬間…しかも本人が電話を調べてかけてくるって、すごいいいね。」

長久 「そうですね。普通はやっぱりマネージャーさんとか事務所を経由してだと思うんですけど、直で森田さんの声が入ってたので、直接脳に訴えかけるメッセージでしたね、ほんと(笑)」


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箭内 「あのー、『前科者』…森田さんの。…… "前科者、森田さん" っていうと森田さんが前科者みたいになっちゃう(笑)映画『前科者』の告知を森田さんからしてもらえたらと思うんですけど。」

森田 「はい。『前科者』という映画が、昨日(2022年1月28日)公開されてますので、ぜひご覧になってみてください。」

箭内 「長久さんは観たの?」

長久 「観ました!面白かったです。僕がお願いしてない、森田さんの幅広い演技が観れて、"あっ、もっとこれもお願いしようかな!" って、もっと映画撮りたくなりましたね。素晴らしかったです!石橋静河さんも出てらっしゃって。」

箭内 「森田さんっていまいくつになったんですか?」

森田 「42です。」

箭内 「なぜそんな42歳になれたの……って本人がそんな自覚的じゃないからまたこの感じなんだろうと思うんですけどね。」

森田 「でも、こわかったですけどね。長久さんに電話したときに、自分はすごく一緒にやりたいと思っても、"長久さんが俺のこと知ってるかな…" とか、"どんな感じでみてるかな…" ってわからないからとりあえず人を挟むより、"自分は会いたいんだ" ってことを伝えよう、まずそっからだなと思って。で、もう強引にですよね。迷惑とか考えずにとりあえず電話しちゃえと思って。で、会ったら "本当にこいつやりたいんだな" とか "本気だな" とかっていうのが伝わればいいな、と思って。で、連絡させてもらったんです。」

箭内 「その時点では、この『DEATH DAYS』っていう企画はまだ机の上に載っていなかったわけですか?」

森田 「そうですね。"短編映画で…" "YouTubeで…"っていうことはなんとなくイメージがあって。『DEATH DAYS』っていう作品になるのは長久さんと会ってからですね。」

箭内 「『DEATH DAYS』はそこで思い付いたのか、ずっと大事にしてたのか、そのあたりはわからないですけど、二人でつくっていったってことなんですね。」

森田 「なんかね、すげえ話したとかじゃないんですよ。僕の”ちょっとした生きることとか死ぬことにすごく興味があるんですよ”っていうそのワードだけで、長久さんがばーっと広げてくれて。」

長久 「"なにか描きたいこととか、大事にしてるテーマはありますか?" って1時間半とか2時間しゃべったなかで聞いたらそういうお答えで、そこから。あと”気になることはなにかありますか?”ってきいたら”清原のYouTubeで泣きました”みたいなこととか(笑)そういう他愛もないことと、大きいテーマから抽出して物語をダーっとつくっていったっていう数ヶ月でしたね。」

箭内 「あとこれ拝見してて感じたのは、やっぱ「言葉の映画」「テキストの映画」っていうか。小説的な脚本っていうか。僕は映画のことは詳しくないですけど、なんとなく思ったんですよ。文字で伝わる内容だなってすごく思って。それを森田さんや石橋さんのような、ものすごいうまいひとが音や画にしていくって、すごく珍しい形の映画だなって思ったんだけど、そういうところってどうなんだろう。長久監督って考えてたりするところなんですか?」

長久 「します、します。僕は本当に言葉が好きで。比較的ビジュアル優先系って思われがちなんですけど、何よりもテキストの単語の組み合わせとか、語尾がいかにどうあるべきかとか、それが発されるときの質感とか、声の高さとか、スピードがどうあるべきか、みたいなことが本当に人の心を動かすんじゃないかって思うタイプなんです。あと、森田さんの声が好きなんですよ。声の湿り気とか、スピード感とか、高さが好きなので、その森田さんにテキストを音にして観てる人に伝えることができるっていう興奮は何よりも高かったです。」

箭内 「そのあたり森田さん、なにか感じてます?」

森田 「現場に入って撮影する、ってなったときにやっぱり細かかったですね。言葉、台詞のスピード感とか、高さとかっていうのはすごく細かかったです。僕の中では、すごく大事な台詞とか伝えたい台詞っていうのは、無意識で発してる部分があったりとか。意識してるところもあるんですけど。そこをなるべく相手に伝えないっていうことであったりとか。あとは、最後に本当に伝えたいところまでは感情をのせないっていうのも、初めての経験だったので、撮影中はすごく…ある意味ストレスを与えられながら進んでいった感じですけど、やっぱり出来上がったものをみて、間違いなかったなっていうのをすごく感じました。」

箭内 「演者さんになにかを強いているわけでもなく、相手を尊敬しながらあの言葉を渡してくって、どういうことなの?っていう。」

長久 「僕はもちろんストレスを与えたいわけではないんですけど(笑)」

全員 「(笑)」

長久 「でも結構言われちゃったりはするので、改善していきたい点としています。もっと心地よく現場はつくっていきたいんですけど。」

箭内 「人当たりはこんなにいいしね(笑)」

長久 「現場では夢中になりすぎちゃったりすると、すっげえ視界がせまくなっちゃうんです(笑)でも、やっぱり日本の映画においてこんなに多弁なのに、しかも本質を散らしながら進んでいく映画っていうのは、ほとんど現代では無いので。」

箭内 「無いよね。」

長久 「でも僕はその人生みたいなものって、より蛇足的なこととか断片的なことのほうに美しさとか、本当に大事なこととか真実みたいなことが混ざっていると思っているので、そちら側を掬っていきたいっていうのがあるので、どうしても言葉が多くなっちゃうのは仕方ないというか、意図して本当に大事なこととして使っていて。方がとしての本筋から逸れてもまったく構わないと思ってつくっている、っていうのはありますね。」

箭内 「これは森田さんが宮沢(りえ)さんと一緒につくった会社の企画制作もする…ってこれどういう位置付けなんでしょう?会社が出来た名刺代わりみたいなことなのか、今までやりたくてやれなかったことをやれるようになったから、すぐやりたかったってことなのか。YouTubeで無料公開っていうのも含めて、なんだけど。」

森田 「まずは、自分たちの好きなものというか、表現したいことっていうのを発信していく、と。今後としては、もちろん自分たちの作品もそうですけど、若いクリエイターの人とか、こういう面白い映像を撮っている人とかもどんどんあげていくチャンネルっていうのを『MOSSチャンネル』っていう形でやっていきたいし。なんか自由に楽しく発信できるっていう場所になればいいなって思ってます。」

箭内 「やっぱりど頭からああいう『DEATH DAYS』みたいなので始まっていくと、このあとどこにいくんだろう、っていう。先頭打者ホームランじゃないですけど、すごく面白いし生半可なことは周りも変な誘い方もしづらくなるよね、あれから始まると(笑)」

森田 「(笑)」

箭内 「"つまらないもんに俺のこと呼んだら大変な目に遭うぞ”っていうような(笑)感じも感じた人はいるんじゃないかなと思って、そこもなんか痛快でしたけどね(笑)」

森田 「でもめちゃくちゃ長久さんには感謝してますよ。そういう意味でも、名刺代わりって意味でも、”こういうことをやりたいんだ、自分たちは”っていうのは、やっぱり作品で残ったらわかりやすいですし。」

箭内 「だんだんああなっていく、っていう会社はいっぱいあると思うんだけど、ど頭からああなっていくって会社は、”森田剛が新しい世界にいったど頭”っていうのがすごいなぁと思うんだよね。大晦日に公開するみたいなところもなんらかそういう思いや戦略があったんでしょ?で、もちろん『DEATH DAYS』の登場人物が大晦日に設定されてるっていうのもあるだろうけど。」

長久 「そうですね。脚本を書いた僕としても森田さんの1発目のものとして、バチっと生まれかわりといったらあれですけど、生きている現実とも重ねられるようにつくりたいな、とは思ってはいたので。それがマインドチェンジできる1月1日のタイミングで、全員が味わえたらいいな、と思ってこのタイミングで公開しました。」

箭内 「だからこの長久允は、電通の社員でもあって、昔はCMつくってたっていって、5年前から映画の世界に…会社には年に2日くらいしか行ってないって言ってたけど、やっぱりすごくいい意味で広告的ではありますよね。この『MOSS(チャンネル)』っていうものだったり、森田剛っていうものが世の中にリブランディングされていくというか、ローンチされていくときの、デビューのさせ方っていうのを、単に映画をつくるってだけに、なんていうのかな…体質的に止まっていないというか。本人はCMのことは嫌いだと思うし、CMやってたって隠したいぐらいなのかもしれないけど(笑)」

全員 「(笑)」

箭内 「でもやっぱり、広告の一番ワクワク、ドキドキする部分と、商品をちゃんと輝かせなきゃっていう部分を、踏襲はしちゃってるなって思いながら観ました。ストーリーのつくりかたが広告的とかそういうことじゃなくて。」

長久 「やっぱり体に染み付いちゃっていて。でもそれは僕のいい部分だな、と思いながらやっていて。商品としての、真ん中にいる森田さんの輝かせ方もそうだし、広告ってお客さんにどう機能するかだと思うんですけど、僕の他の映画よりも、より観てる人に機能的に働きかけていくものをどのタイミングでどう打つかっていう、広告的視点でつくってるなっていうのは思ってるので、うっすら自覚をしています。」

箭内 「そうですね。広告って、みんな”あざとい”とか”ずるい”とか”汚い”っていう人多いし、電通のこともみんな嫌いだし。ネットの人たちとか。そういう中で、こんな素敵な面白いことができる人もあの会社にいるんだよ、ってことは電通にとってもすごいありがたい存在だと思いますよ。年に2日しかこなかったとしても(笑)」

長久 「ですよね。まあ、悪い部分は悪いって社内で大声で言ってるタイプなんで、うざがられてはいるんですけど(笑)」

箭内 「はい(笑) まあ、こんな感じでラジオ風とロック、森田剛さんと長久監督を来週・再来週もお迎えしてお送りします。どうもありがとうございました!」

森田・長久 「ありがとうございました!」

箭内 「風とロック、箭内道彦でした。」