ゲスト:長久允 - 長久允が選ぶ箭内道彦 作品 BEST3 (ナチュラル面)

自分が死んでしまう日「デスデイ」を、生まれたときから皆知っている世界───
昨年末、大晦日をカウントダウンするような形で公開された短編映画『DEATH DAYS』(デスデイズ)。
キャストの森田剛さん、監督・脚本の長久允さんをお迎えした3週連続オンエアの翌週、長久監督お一人に再びゲストとしてお越しいただきました。
トークテーマは「長久允が選ぶ箭内道彦 作品 BEST3 」です。




(2022年2月19日オンエア「風とロック」より)



長久「風とロック、長久允です。僕はコーヒーが好きなんですけど、朝イチからコーヒーを飲んで、ずっとコーヒーを飲んでるんですが、僕は舌が寛容なので、コーヒーにちょっと飽きたらお湯を入れたり、その辺にあるソーダを入れたりして薄めたりして飲んでるんです。まずいなぁ、と思いながら飲んでて、普通に飲んでると何も感じなくなるんですけど、"まずい"っていう感情がたまんないなぁ、と思って、まずくして飲んでます。コーヒーの話でした。


LOVE SPREADっていう、ニューヨークにいるバンドのボーカルの方がこの前亡くなっちゃったんですけど、そのバンドのいい曲があって。『BLOODY NOSE NORTH PARK』っていう曲があるんですが、聴いてください。どうぞ。」


♪BLOODY NOSE NORTH PARK / LOVE SPREAD


長久「そんな感じでした。」

箭内「風とロック、箭内道彦です。あのね、先週まで森田剛さんと長久允さんに来てもらってて、僕にとってはこの番組のこれからの方向性を占うような衝撃があったんですよね。で、今日も延長戦で長久監督に来てもらったんですが、これ、聴いてる人は "あ、3本録りのあと、残ったのね" って思うかもしんないけど、そうじゃないんです。あれからもう2週間、3週間くらい経つなかで、改めて集合したんですよね。だから先週までは、森田剛・長久允・箭内道彦の3人で、そこから森田剛が抜ける状態でのオンエアっていうのは、かなり値動き的にというか、時価総額的には、低いね(笑)」

長久「(笑)」

箭内「友達の家なのに友達以外の二人がその家に残ってる、みたいなパターンあったじゃないですか、昔(笑)」

長久「ありますよね、呼んでない方がずっといるなぁ、っていうことですよね。」

箭内「そうそう(笑)……いやいや、それはまぁ冗談なんですけど。だからね、この前の収録の終わり際に長久允が僕を激励してくれたんだよね。」

(第2回・2/12の様子を音声で振り返る)

〜〜〜〜

長久「僕、『871569(読み:ヤナイゴロク)』」も読んでますし…」

長久「僕ふだん三つ編みとかにしてるんですけど、やっぱり箭内さんの金髪の逆サイドでやってるんじゃないかな、ってちょっといま気づきましたもん。」

箭内「やめてください(笑)」

〜〜〜〜

箭内「ときどきああやって捨て台詞みたいに言われるわけよ。」

長久「(笑)」

箭内「ちょっとまって!詳しく教えてよ!みたいな感じなのに…(笑)」

長久「いや、僕はふだんから長嶋(太陽)くんに話してて。※」 (※ラジオ風とロックの放送作家)

箭内「最近、激励されなれてなかったので、ほろっときちゃったんですよ。"うわ、俺、褒められた!"じゃないけど…」

長久「箭内さんの広告、とっても好きで。」

箭内「ほんとに??」

長久「僕、電通の社員なんですけど、全然電通のプランナーイズムを継承できてなくて。むしろ箭内さん的なものからの影響強いんじゃないかな、って自分でもめちゃくちゃ思ってるんです。」

箭内「ふーん。」

長久「で、今日、全然台本にはないんですけど。『箭内さんのつくった、僕の好きなものベスト3』を考えてきたので。」

箭内「うわ、めちゃくちゃ緊張するね…!ほんとに、人って、一回褒めたら一回褒めて終わり、っていうパターン多いじゃないですか。だから、一回褒めてくれた人がまた褒めるっていうのが、最近本当になかったので。」

長久「あ、やったぁ。」

箭内「ちょっと、俺、寂しいなって思ってたところに、ふっと……。ちょっとお願いします、きいてみたいです!それによって改めて自分を知って、あぁ、そっか、そこを最近忘れてたな。とか、現在地も確認したいので。」

長久「はい、ぜひぜひ。」

箭内「11月1日を"デスデイ"にしたい長嶋がすげぇ嬉しそうにきいてる(笑)」

長嶋「うれしいですね〜(笑)」

長久「じゃあ、ベスト3、順不同で悩ましいんですけど…一つ目は、これはやっぱり名作なんですけど、auの『ふつうの17歳なんか、ひとりもいない。』」

箭内「えー!そんなの知ってるの!!!」

長久「もちろんですよ!!!」

箭内「うわー!」

長久「何が好きか、っていうと。秋山晶さんにコピーをオーダーされてるじゃないですか。で、その後に『がんばれ、17歳』的なものから、『ふつうの17歳なんか、ひとりもいない。』っていうコピーを、ふつうのアートディレクターだったら、綺麗にフォントディレクションしてレイアウトするのを、送られてきたFAXの字詰めされていないものを採用した、って何かに書いてあるのをみたことがあって。」

箭内「よくそんなレアな、本人が忘れているような話を。」

長久「そうですよね。僕はそれにすごい感動して、やっぱり広告とかつくってると、綺麗に綺麗にしていったりしちゃうんですけど、本当にドキドキするものとかソワソワするものとかって、調整されてないところに宿るんだ!ってそれをみて知って。字詰めをしない、そのままを見たときの衝撃が、広い広告、CMというところにそのまま載ってる、っていうディレクションがめちゃくちゃ大好きです。」

箭内「ありがとうございます。」

長久「これ本当に影響を受けていて。その感覚というか。」

箭内「うん。それはいい目の付けどころだと思います(笑)」

長久「ありがとうございます(笑)」

箭内「FAXじゃなくて、文字打ちしたものを渡されたんだよね、これです、って。で、その言葉は、その文字とその字詰めしてない感じじゃないと、その言葉がきこえてこない、って直感したんですよ。で、それをもらって帰ってスキャンして、それを使ったんですよね。」

長久「いやー…すごい。素晴らしいですよね。どうしてそんな判断をしたんですか?」

箭内「うーん。それを超える自信がなかった、っていうのは正直なところかもしれないけど。自分でこねくり回したもので。やっぱりいま言ってもらったように、すっと入ってくるか、こないか、とか。デザインっていうのは、ほぼ9割9分のデザインに自意識がありすぎて、大事なことがちょっと伝わりづらくなるんですよね。その伝わりづらさを味わうのもデザインなんだけど。だから僕は、デザイン恐怖症とか、アンチデザインとかって言ってきたなかで、ひとつの自分のしてやったりなエピソードだったんでしょうね。きっと。22年前の彼にとっては。」

長久「僕はこのエピソードが"アートディレクターだな!めっちゃかっこいいな"と思ってます。」

箭内「いやいやいや…、ありがとうございます。非常に嬉しい。あの、大学で字詰めとかを専門にしてる先生がいて、その先生に最近きいたら、"最近字詰めしないのが流行りだ" っていうわけ。最近字詰めをしなくなった、と。特に若い人が。ちょっと早すぎたな、て思ったね(笑)」

長久「たしかにこのエピソード好きなの、僕らの世代で僕くらいかもしれない(笑)」

全員「(笑)」

箭内「なんか、そこにふわ〜っと漂ってる、気っていうとちょっとスピリチュアルにきこえちゃうかもしれないけど、その雰囲気とか感じっていうのを……"感じ"なんですよ。僕にとってデザインって感じをつくることなんですよ。感じを合わせる、とか、感じを生み出すことなので。感じが逃げるのが一番嫌なんですよね。感じを逃しちゃう人、いっぱいいるでしょ。で、自分の感じにつくりなおす人。」

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箭内「うわ〜よかった。今日もうこれで終わりでいいです(笑)」

長久「(笑) あと二つありますけどね!(笑)」

箭内「お願いします(笑)」

長久「二つ目は、サンボマスターさんの『ラブソング』のミュージックビデオが好きですね。いまYouTubeとかにないですよね。もったいないなぁと思って。」

箭内「うん、なんか消されちゃってます。」

長久「たぶん、自主制作的なニュアンスだからなのかもしれないんですけど。何が好きって、2本あるじゃないですか、あれ。なんか、2本どうしようもなくつくりたいからつくった感じがすごい好きで。箭内さんのつくりたさがオーダーを超えてるっていうことを含めた、事象として好きだし。あとやっぱり、雨が降ってるのが逆にいい、とか。初めてオフを撮っていく、みたいなものをちゃんと作品にしているなと思って。今で言う、奥山(由之)監督とかがそういうPVをつくっていたりするんですけど、それよりも全然前に箭内さんがやられてたな、と思って。録ってる側の箭内さんの高鳴りが聴こえてくる感じ、作り手の存在がきこえてくる感じ、っていうのはめっちゃ好きだな、と思ってます。」

箭内「ありがとうございます…!おじさん褒めるのって気持ちいいでしょ!おじさんがドキドキしながら聴いててさ(笑)」

長久「そうですね、お酒注ぎたくなりますね(笑)」

箭内「あれ、ほんとは3つあるんですよ。しかも自主制作で勝手につくってるんで、1本つくってください、とも言われてなかったなかでつくったものだったので。3つ目は、8ミリじゃなくて、全部スチールだけでやってるスライドショーみたいなやつで。」

長久「なんか、ネットにそれと8ミリっぽいやつが落ちてるんですけど…」

箭内「8ミリ、もう一個あります!」

長久「もう一個って、海だけっぽいやつでしたっけ?」

箭内「割と海が出てきて。」

長久「あー、そうですよね!みた記憶あるのに、探しても出てこなかったんで、やっぱり3つありましたね。」

箭内「1箇所だけCG使ってて。(長澤)まさみちゃんが海を指さして笑ってるのが撮れたので、"うわー、この指さしてる先に、8ミリなんだけどUFOが飛んでたらいいな〜" って思って。大学の同級生で、もう亡くなっちゃったんだけど、CGすっごいうまいやつがいて、UFOのCGつくってもらって、合成してるんだよね。誰にも気づかれてないですけどね(笑)」

長久「ああ、いいですね。」

箭内「みんながやることを先にやってたってことでは、全然ないんだけど、自分が心からやりたくてやったことが、のちのクリエイターたちのもとで開いていく、その一部になれたんだとしたら、こんな嬉しいことはないですよ。自分一人でなんかやって終わっちゃうんじゃなくて。そのバトンじゃないけど、ヒントになれたりきっかけになれたっていうのは、嬉しいものなんだな、と思って。前はもう、そんなの関係なく一匹狼で終わりたいな、って思ってたけど、大学で教えるようになった理由も、なんか誰かに渡していなくなりたい、みたいなのがあって。"デスデイ"に向けてね。」

長久「プライベートな感覚を世の中の大きいところの、プライベートじゃない、仕事として出していくスタンスみたいなことの影響をすごい受けて。『MOSS』とか、森田さんのスタンスとかもそうなんですけど、素晴らしいですね。」

箭内「『MOSS』って、"(M)森田さん" の "(S)スタンス" っていうのの略かもね(笑)」

長久「(笑)」

箭内「ちがう、"苔" だって言われたね、この前(第2回)ね。 "森田" "スーパースター" じゃないって言われて(笑)」

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長久「ミュージックビデオで言うと、これ番外編ですけど、スネオヘアーさんの『ヒコウ』のミュージックビデオもすごい好きで。(当時)学生だったんですけど。」

箭内「そんなのも知っててもらえるなんて…!全部油絵ムービーっていうか、Macでこするって呼んでたんだけど、ENLIGHTENMENTっていうところの人たちが、一枚一枚映像をこすって、絵みたいにしていくんだよね。溶かして。」

長久「1枚1枚やってるんですよね。」

箭内「そうですそうです。」

長久「素晴らしいですね。あれは初めて観た感覚のミュージックビデオで、当時あんな表現とかやってなかったですけど、すごい好きでしたね。」

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長久「そして最後のひとつなんですけど。」

箭内「あぁ、もう終わっちゃうんだ…!」

長久「あ、じゃあ、番外編をもう一個いってもいいですか(笑)」

箭内「はい(笑)」

長久「Mean Machineの、『この国はよくない方向に進んでいる。』っていうコピーが出ながらのCMがあったと思うんですけど、あれすごい好きでした!」

箭内「ありましたねー…!」

長久「社会への提言を、ミュージシャンとかもあまりやられていない頃だったと思うし、そっちのネガティブなことの提言もさらになかったと思ったので、それを広告というものでやっているし、もちろんMean Machine自体も素晴らしいし。すごい好きだなと思っていました。」

箭内「俺が好きなもので、俺が忘れてたものを思い出させてくれてるという、そういう感覚です。あのときの、物申す!みたいな感じでそれぞれが思うことを話してもらったCMは、自分で撮ろうと思ったんですけど、中島哲也に頼んだんです。」

長久「あ、そうなんですか!」

箭内「なんで俺が撮る必要があるんだよ、って最後まで言われて。」

長久「すごいな、おもしろい。箭内さんって、そういうオファーの仕方もいいですよね、とっても。」

箭内「そうなんです(笑)」

長久「秋山晶さんにコピーをお願いしたりとか、すごい面白いですよね…!」

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長久「最後の一個……永遠に喋りたいけど、一旦最後の一個を…!」

箭内「ありがとうございます、本当に。」

長久「ソニーミュージックのオーディションのCMがすごい好きなんです。」

箭内「…また、すごいマニアックなの知ってるね。」

長久「めちゃくちゃ好きで。平川地一丁目とかを輩出したオーディションですよね。」

箭内「そうですそうです。タテタカコさんも出たし。」

長久「あ、そうそう。タテさんも。なんか、CMが硬いかっこいいものだったときに、ああいうオーディションのそれぞれの姿をドキュメント的にハンディカムみたいなもので撮ってるのを、そのままの素材に近い形で、あまり加工とかせずに出している、っていう。音とかもすごいザラザラしてたと思うんですけど、その感じがめちゃくちゃ好きで。CMって、大きいコピーとか、強いメッセージとかでドキッとするとかかな、と思ってたものが、映像のディテールとか、そこに息づく息遣いとか、そういうことに感動することができるんだ、ってそれで知って。僕が広告苦手なのが、高品質さとか、高飛車さとか、誇大広告感がすごい苦手なんですけど、そういうものとは違う、リアルな僕らの日常と繋がっている現実の良さを確認させてくれてるな、っていう作品というか、CMだなと思って、それがとっても大好きですね。」

箭内「ソニーミュージックオーディションのCMはね。30秒なんだけど、"これはCMではありません" っていうつもりでつくってたんです。30秒のドキュメンタリーフィルムというかね。今でいったらそういうのもあるけど。"ドキュメンタリーなんです" ってやってましたね。是枝裕和さんがやってくれて。」

長久「あ、そうなんですか。じゃあ、僕見る目あったな、うれしいなぁ、いまの(笑)」

箭内「プロデューサーに、是枝さんみたいな人を連れてきてくださいって言ったの。エンジンフイルムっていう、是枝さんがよく仕事してるところで、そこのプロデューサーの桑田さんって人に、"未来の是枝さんを" って言ったのかな。2000年ですけどね、それも。そしたら、是枝さんが打ち合わせにやってきたんだよね。「僕みたいな人じゃなくて、僕でお願いします。」って是枝さんが言ってくれて(笑)」

長久「おもしろい(笑)」

箭内「すごく面白かったんですよ。」

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箭内「もう一回話戻りますけど、『DEATH DAYS』に。」

長久「ありがとうございます!」

箭内「あの3週間、僕も改めて聴いても、森田剛さんは、良いね。本当に話したのが初めてだったんです。もちろん声もいいけど、本当にああいう人いるんだねー。」

長久「森田さん、やっぱり嘘つかないんですよね。その場を繕うような適当なことを、僕は、言っちゃうんですけど(笑)」

箭内「今日の放送みたいにでしょ??(笑)」

長久「あ、ちがうちがう(笑) ミスった!ちがいますよ!(笑)」

箭内「大丈夫です、そんなこと思ってないから(笑)」

長久「でも、さらに輪をかけて本当の中心で思ってることしか、森田さんは言わなくて。そんな人、なかなかいないじゃないですか。そこが素敵ですよね。」

箭内「そんな森田剛主演、長久允監督による映画『DEATH DAYS』が3月12日から、劇場公開になるということで…急にラジオというかプロモーション的になってるけど(笑)」

長久「ありがとうございます(笑)」

箭内「そのために今日来てるわけじゃないからね(笑)。そして、長嶋太陽編集による、『デスデイズブック』。これもう入稿済んだの?」

長嶋「まだ、絶賛製作中です。」

長久「ちょっと中身について長嶋先生、説明をお願いします。」

長嶋「100ページ以上の、しっかりした書籍の形になりそうで、いわゆるパンフレットの役目ではあるんですけど、それよりももっと、本としてすごくかっこいいものにしたいな、と思って。デザイナーのTATAくんっていう、雑誌『POPEYE』だったり、僕が以前つくった『Magazine ⅱ』だったりをいっしょにつくっていたデザイナーと、二人でいろんなことを考えながらつくっています。」

箭内「楽しみです。これも、3月12日?」

長嶋「はい。3月12日の劇場公開に合わせて、劇場で売ってもらったりとか、あとはオンラインで売ってもらったりとか、いろいろ考えてもらっています。」

箭内「はい。楽しみですね。」

長久「楽しみです。」

箭内「じゃあ、今日は長久さん、ありがとうございました。」

長久「こちらこそ!今日は箭内さんの僕の中のナチュラル面を話してたんですけど、派手面の話もいっぱいしたいことあるので…アンリアル箭内もすごい好きなので。」

箭内「がんばります(笑)。」

全員「(笑)」

箭内「がんばりまーす。」


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箭内「じゃあ、今日は長久さん、ありがとうございました!」

長久「こちらこそ、ありがとうございました!」

箭内「どうもお疲れ様です。」

長久「お疲れ様でした。」

箭内「風とロック、箭内道彦でした。」