#112 中高生が都会のど真ん中で76年目の米作り! 渡邉隆昌先生

#112コンテンツ紹介

今回のポイント
・筑波大学附属駒場中学校・高等学校の歴史ある水田学習
・水田のあぜ道補修のクラウドファンディング実施中!
・井の頭線に乗ったら水田をチェック!
《お迎えするスペシャリスト》
筑波大学附属駒場中学校・高等学校 渡邉隆昌先生

筑波大学附属駒場中学校・高等学校
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「Clean,Simple,Smart.」 LATE2019 原石たち 2019年12月発行号より引用
筑駒の米作り
超エリート進学校に代々伝わる
水田学習にみるハイブリッドネス
Text Kai Hikiji

渋谷から2駅のところに田んぼがあり、73年間もの間、毎年欠かさず米作りが行われている。しかも昔ながらの農法で。この事実をきっと東京都民のほとんどが知らない。そしてさらに驚きなのは、その水田を長年守り続けているのが進学校として名高い筑駒の生徒たちだということだ。なぜ東京のど真ん中に水田があるのか。そしてそこで泥と戯れる秀才たちは何を感じ、何を学んでいるのか。10月初旬、稲刈りの当日に駒場の田んぼに向かった。


筑波大学附属駒場中学校・高等学校、通称「筑駒」。中学高校受験経験者またはその親であれば知らぬものはいない日本屈指の名門進学校である。卒業生の東大合格率は毎年断トツ1位で、卒業生160人中100人が東大に進学する年もあるそうだ。そんな超秀才たちが集う筑駒で、創立以来73年間続いているのが水田学習、そう、米作りなのである。

筑駒のキャンパスから歩いて5分、目黒区立駒場野公園内にある「ケルネル田んぼ」がその舞台だ。実は目黒区駒場は近代農学の発祥の地として知られている。1874年に創立された駒場農学校は、札幌農学校(現在の北海道大学)とともに日本近代農学発展の礎となった。その駒場農学校で教鞭を執り、日本の土壌や肥料研究において多大な功績を残した外国人教師オスカー・ケルネル氏がその田んぼの名前の由来だ。駒場農学校はその後改称を重ね、現在の東京大学農学部、筑波大学生命環境学群生物資源学類、東京農工大学農学部などに派生していく。その流れを受けて、現在でも筑駒の生徒たちがその「ケルネル田んぼ」を守り続けているのだ。

筑駒の水田学習は中学1年生と高校1年生の必須科目で、それぞれの新1年生が筑駒のルーツである農業の洗礼を入学と同時に受けることになる。どうせ中高生のやる米作りでしょう、なんて軽くみるなかれ、この水田学習、かなり本格的。ありがちな「1日農業体験」や「農業ごっこ」とはレベルが違う。耕運機を要する代掻き(しろかき)だけは代々親交のある農家に依頼しているものの、それ以外の施肥、田植え、除草、防虫防鳥対策、稲刈り、稲架がけ、脱穀、籾摺りまで、米作りに関する一連の作業のほとんどを生徒たちが一年かけて行う。さらに、1反7畝という規模でありながら、収穫量にもこだわっている。それもそのはず、収穫された米は赤飯にして(ここは業者に依頼)、翌年の3月には卒業生に、そして4月には新入生に振る舞うというのが筑駒の伝統。よって、筑駒の生徒であれば誰もが入学時にその米を食べ、在学中にその米を作り、そして巣立ちの日に再度口にするのだ。

「在校生はもちろん、卒業生、そして関係者、さらに関係者でなくとも、筑駒の説明をする際に必ず話に上がるのがこの水田学習です。田んぼはもはや筑駒のアイデンティティなんです」。

そう話すのは筑駒で水田学習を指導する技術科の渡邉隆昌先生。学年としては中学一年生のクラスを受け持っている。

「筑駒の生徒たちは膨大な知識を頭に入れて入学してきます。しかし、豊かな自然環境に馴染みなく育った子も多く、自分の足が田んぼに埋まっていく感覚や泥のぬくもり、映像で見たよりも実際は難しい田植えなど、五感を使って学ぶということが逆に新鮮なのかもしれません。実は筑駒に入学してくる生徒のうち、約1割はこの水田学習を目当てに入ってくるんです。実際に農業に興味があるというよりも、生物とか昆虫とか植物に興味がある子たちが多いですね。あとは純粋にそういう環境が近くになかった都会育ちの子や帰国子女など。毎年学年で選出する水田委員という係も結構人気で倍率高いんですよ」。

国内トップレベルの頭脳を持った子供たちだ。きっと米がどのような過程で作られるのか植物学的に理解はしているのだろう。しかし、それを自分の体で経験することで、頭の中にあった知識が、自分の指で感じる泥の温かさなどの実感値とリンクし、昇華する。まさに文字通り、身になる、のだ。

「うちの学校は教養主義。生徒たちが自分たちで能動的に考え、主体的に行動することを大切にしています。学校はそのベースとなる知識や経験を与える場です。水田学習もまさにその一環です。正直、筑駒の卒業生で、直接的に農業に関わる職に就く生徒は多くはありません。しかし多感な時期に、頭だけでなく体で感じ学ぶこと、自然の中で生産することの難しさ、そして代々繋げていくことの意味や喜びを知ることは、彼らの人生において大きな意味を持つと思います」。

渡邉先生は水田学習の他に、プログラミングも教えている。環境もさることながら、教員もハイブリッド。そんなハイブリッドな掛け合わせが強い土壌を作る。大都会の中にある田んぼで泥と戯れる学生たちを見て、筑駒を筑駒足るにする所以を垣間見た気がした。

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