おばあちゃんの思い出

赤ちゃんのころからおばあちゃんにおんぶしてもらうのが好きで、
おんぶをしてくれないと、泣いてだだをこねたようで、相当おばあちゃんを困らせていたようです。
私の記憶はあまりないのですが、おばあちゃんにおんぶしてもらっている写真が
たくさん残っています。

小学生の頃は、学校から帰ると、居間でテレビをみているおばあちゃんと
一緒におやつを食べるのが日課でした。
「ともちゃん、今日は学校はどうだった?」と、いつも優しく話をしてくれていました。

おばあちゃんは、赤ちゃんの頃から変わらず変わらず自分のことを「ちゃん」付で
呼ぶのですが、小学高学年頃から、だんだん恥ずかしくなってきました。
「そろそろ『ちゃん』付けはやめてよ」といっても、
「『ともちゃん』は『ともちゃん』だよ」といって聞き入れてくれませんでした。

中学のころからは、次第に居間でお茶をすることも少なくなり、
高校を卒業し東京の大学に進学して、就職して、なかなか名古屋の実家に
帰らない不義理な私にも、実家に帰った時には「ともちゃん、お帰り」と優しく迎えてくれました。


私が結婚したあたりから、おばあちゃんの痴呆症が進んできました。
だんだん人の顔と名前もわからなくなってきていました。
私が遊びに行っても、ぼんやりしていて、私のことをわかっているのか
いないのかよく分からない状態が続いていたのですが、
生まれて間もない長男を連れて実家に帰った時のこと。
「おばあちゃん、ひ孫が生まれたよ。」と長男を見せると、
おばあちゃんがパッと目を見開いて「ともちゃん」と。
違うよ、ともちゃんの息子だよ と、説明しても、何度も「ともちゃん」と
繰り返します。その様子がおかしくて、皆で大笑いしました。

それから何年かして、おばあちゃんは旅立ちました。
最後のお見送りのとき、母親が「あんたが一番かわいがられていたよね。これをお棺に入れてあげて」と
一枚の写真を手渡されました。
それは、おばあちゃんにおんぶされて満面の笑みの小さい頃の私の写真でした。

写真の中のおばあちゃんが「ともちゃん」と呼ぶ声が聞こえます。

「こんなおじさんに「ちゃん」づけは勘弁してよ」 と言い返したら、
それまで我慢していた涙があふれてとまりませんでした。

アキヤマニア

神奈川県 / 男性 2021/9/6 10:46