6月18日 土井善晴さんインタビュー「料理をする事はすでに愛している、食べる事はすでに愛されている」

テレビのお料理番組の講師として、また1992年に「おいしいもの研究所」を設立され、食文化、それから家庭料理の本質を研究し「持続可能な日本らしい食」を提案している料理研究家・土井善晴さん。 土井さんをゲストにお迎えした6月18日は、国連が2016年に制定した「持続可能な食文化の日」でしたが、土井さんは今から28年も前から、ずっと続いていく日本の良いもの、お食事を提案してらっしゃいました。 そんな土井さんに、食べること、料理すること、生きることについて、教えていただきました。 ==========================



▶︎日本の食文化のいいところ

土井さん「日本の食文化の一番いいところは、自然とつながっているんだということ。縄文時代から今も大きくは変わらない食文化を持ち続けてるところが、まず一番の特徴かなと思いますね。

 大昔の人は、自然と共存してきた。食事という、自然と人間の関係を作るものが介在したからできたことですよね。人間が人間である理由は、人間が料理する動物だってことにあるんです。

 火を使って炙る、炊く、そしてふかす、蒸す、煎る、なます。5つくらいの調理方法と素材をくみ合わせる。これだけなんですよ。料理の中でも和食っていうのは、とってもシンプルで、複雑な調理工程が極めて少ない。日常の暮らしの中で、常に自然の食材、つまり旬の、今そこにあるものと向き合ってきた。畑にあるもの、山にあるもの、海にあるものなどを、手で採取して、少しだけ手を加えて食べる。調理方法が非常にシンプルで、人為的じゃない。」

小野寺「自然の側に寄り添うことができる手段としての料理ですね。そう思うと、心震えますね。」

土井さん「寄り添うどころか、自然に生かされてるんだということね。
 
 地球と日本、地球と人間、あるいは自然と人間というふうに、対局的に考えるんじゃない。和食を持ってすると、まさに自然の人間は一部である、地球は自分である、自分は地球である…というふうに考えることができる。だから、地球が傷ついたら私は本当に胸が痛くなるし、苦しい。子どもたちのことを考えたら、なんと愚かなことを私はやってきたのかと思います」



▶︎信じることができるものは、地球

土井さん「私たちの子どもの頃は信じるものがあったんですよ。学生なんかにも授業で聞くわけだけれども… 小野寺さんにとって信じられるもの、信じるものって何か今ありますか? 問いかけてみてください、今。」

小野寺「今、ですか…。そうですね。外出自粛が明けて、海に戻ってきた子どもたちの姿、ですかね。
 普段、ラジオをやっていない時、私は神奈川県逗子市で子どもの海の活動をしているんです。先日、自粛明けで、2ヶ月ぶりに放課後の逗子海岸に子どもたちがわぁーって戻ってきました。思うままに潜って生き物を探す子もいれば、勢いよくボードに乗ってパドリングして沖に出ていく子もいて、みんなそれぞれに生き生きしている。
 夕暮れ時までたっぷり遊んで、だんだん染まっていく海と空に子どもたちの姿が溶け込んでいく。これまでは当たり前だったそんな風景を久しぶりに見たときに、自分の信じるものはこれだ、と思いました。“ああ、こんなに守りたい大事な風景だったんだ” と。
 海や森で思いきり遊ぶ子ども。それを見守る親たち。飽きるまで遊んで、家に帰ったらご飯がおいしくて、眠りにつくまでずっと幸せな、あの感じ。これがずっと守っていきたいものだし、この風景が続けば、地球も未来も大丈夫なような気がする、と感じていました」


土井さん「うんうん。まぁ、どうかな、わかんないけども。」

小野寺「あっ、ちょっと違いましたか(笑)」

土井さん「学生に “今あなたが信じられるもの、信じるものは何?” って言ったら、思いつかないんですよ。自分しかない。今、目の前にあるものとかね。私は家族を信じるとか、学校の先生を信じるとか、警察や国を信じるとか言っても、共感されない。もうだれも、何も信じられないっていうのが多い。自分しか信じられないって。自分で質問しておいて、もう彼女たちがいとおしいような気持ちになるんだけども。

 そんな中、唯一信じることができるものは、地球だと言えるよね。地球だけが自分を無条件で守ってくれている。宇宙へ行ったら、私たちは何か機械の力をかりなければ呼吸もできない、歩くこともできない、話もできないと言うような状況でしょう。地球だけが、こちらが何の努力もしなくても、息をして、食べるものだってあるやろって… 自由に歩けること、好きなことをさせてくれるのは地球だけなんですよ」


▶︎食べるだけでは、無責任

土井さん「その地球を守ることが、料理。だから、自分で料理をすることが大事。
 みんな、食べることが大事だとは認識していて “人間は何を食べてきたか” という本はいくつも出ています。けれども “人間がなぜどのように、何を料理してきたか” という、料理してきた女性の役割や、料理の歴史はあまり考えられてこなかった。
 人間は料理をして、初めて地球のことを思えるんですよ。料理をするのは、誰かを思う行為。料理して初めてあなたのこと、家族のことを思える。一人暮らしで自炊をしていても、自分で料理する、自分で食べるって言う一人二役できますね。料理するっていう表現者と、観客の関係で。

 料理をすることで、自然と人間、自然と物、あるいは人間と人間、人間と食材、物と物… すべての関係性が、対峙するものではなく「何々と何々」の”と”のところに、ハートマークが入るようになる。そうすることで、人間の愛情とか情緒とか、そういうようなものが生まれるんですね。だから食べるだけやったら、無責任」

小野寺「ぐさーっ。刺さります。食べるだけじゃ、無責任。本当にそうですね」

土井さん「無責任ですよ。お腹空いたら大抵みんな機嫌が悪くなるし、デパ地下に行ったら余計なもの、無駄なものを買ってしまう。食べるだけだとね、人間は自分のことしか考えないんですよ。あなたのことを、作る人のことを考えない。
 今の世の中、お金を出せばなんでも手に入るから。料理なんて作らなくてもいい、農業でさえいらないっていう方向に向かってしまうわけですよね。
 だけども、農業は要らないの?料理はいらないの?って、立ち止まって改めて問い直してみたらいい。そんなわけがないから。直感的に、私たちの大切なものを失うっていうことがわかるでしょう。
 自分を信じられるというのは、地球を信じること、料理する自分の手を信じること。人間、頭で考えていると思いこんでいるけれど、頭で考えることを私は信じていないんですよ。

 少なくても、私が頭で考えることはずる賢い。どうやったらサボれるかなぁとか、どうしたらうまく自分だけ得するかなんてことを考えて。頭で考えることは、自分に都合の良いことばかりなの。
 直感はいいですよ。目で見ること、鼻で匂い嗅ぐこと、耳で聞くこと、触って感じること…味覚が最後にあるけれども、そういう、無条件に感じることね。
 目の前でおばあちゃんが倒れそうになったら “あっ!危ない!” って、心が動くでしょう。心が動くいうのが感動で、大事なこと。頭で考えて “危ないからどうしようかな” なんて思ってるのでは間に合わない。頭で考えて出てくるものは、あんまり信じたらあかんのですよ」

小野寺「本当にそうですね。コロナで動けなかった間は時間に余裕があって、考えるよりも感じる余裕がありました。そのときは、まさに、呼吸できるだけでも、食べるものがあるだけでもありがたいって感じていました」





▶︎しっかり食べさせなくてもいい。ニコニコして、料理をすることが大事

小野寺「お料理については、土井さんが書かれた言葉ですごく好きな言葉があるんです。 “料理をする事は既に愛している、食べる事は既に愛されている” これがもう、すごく響いちゃって。」

土井さん「まったくその通りなんですよ。でも今、料理することのハードルが高くなってるでしょ。本当は大昔から、料理って誰でもできることなんです。そうでしょう?火があったら、何か肉でも焼くじゃない。肉がじわーっと、炙られるのを見てて、子どもたちは “もう食べてもいい?” とか、”ね、もう焼けてる?” とか親に聞く」

小野寺「心が動いていますよね。」

土井さん「うん。その、見てる時に、油がじわじわ出てきたり、焦げ目ができたり…そろそろかな?食べごろかな?と感じる力。それが料理すること。本能として、みんなが持ってるものです。”おいしそう!” って感じることがね。
 これを使って焼くか蒸すか茹でるかすれば、あとは塩振ってでも、味噌つけてでも、マヨネーズつけたって構わないから、食べればいい。それが料理の原点。」


小野寺「素晴らしいなぁ。そういえば、年長児の息子も、海でとってきたカニを茹でるだけで、本当に嬉しそうです。こんなお話を伺った上で、一汁一菜でいいんだよなんて言われたらもう、"いいなぁ。今晩は、ご飯と具沢山味噌汁つくろ” って思います。心が動く。食材と向き合う。その時間こそが料理なんですね。」

土井さん「そうなんですよ。だから、ご飯を炊いて味噌汁作ればいい。そしてそれは、小学校3年生か4年生ぐらいになったら誰もできるんですよ。」

小野寺「確かに…!」

土井さん「親がちゃんとそれを教えたら、一人暮らしでも大丈夫。 “家に誰もいないけど、僕はご飯炊いて味噌汁作るよ。君も、家に帰ってもご飯ないんだろう?一緒に食べよう” って友達を連れてくることもできる。小学校3年生でも友達を幸せにできるっていうのが料理をする力です」


小野寺「すばらしいな… どうやったらこの料理の力、子どもたちに伝えていけるんでしょうか?」

土井さん「食べることよりも、料理の方が大事って覚えておいてください。親は “しっかり食べなさい” じゃなくて、そんなにいろいろ食べさせなくてもいいから、ニコニコ笑顔でね、ご飯炊いて、味噌汁を作っていたらいい。味噌汁が具だくさんなら栄養的にも満足だし、問題ない。1日3食それでもいいから “はい、これ” って。これじゃ足りないって子どもが言ったら “うちはお金がないから仕方がないの” って言えばいい。子どもはちゃんと理解するから。
 大事なのは、親が一生懸命してるっていう姿。ニコニコしていること。悲しくても笑顔っていうのはね、子どもはわかるしね。その姿さえ見せていたら子どもは、もう大丈夫。良い大人がいっぱいになるよ。そしたら、あとはもう子どもにね、任せたいよ。この地球を、本当に。笑」



▶︎料理は、自立

土井さん「食べる人もちゃんと料理に参加することが大事。でも食べる人って、最近は ”さぁどんなご馳走を食べさせてくれるんだ” ってものすごく受け身になっていることが多いでしょう。それがよくない。

 日本の料理にはね、昔から旬があったんです。”あぁ、初もんやな!” って。今頃だったら今年初物の、やっぱり茄子でしょう。気温が上がってくると柔らかくなって ”やっぱり旬はおいしいね”って言う。それが、茄子と自分との関係とか、畑と食卓の関係を作るし、イマジネーションを膨らませるでしょう。とっても豊かになれる。
 食べる人がそれを口に出すことね。”お母さん、やっぱりおいしいなぁ!” って。”あんた、ぼーっとしてるけどなんでわかんの?” って、お母さん言うけど、わかんのですよ子どもは。ふふ。」

小野寺「そうですね。ちゃんと心が動いてる瞬間は共有できますよね、隣にいるだけでね。私も、聞いているだけで、心が動きまくってきました(笑) 
 土井さんの仰るとおり、難しい料理を一生懸命作るよりも、簡単なものでいいから、ご機嫌な顔をしてその時間を一緒に過ごしなさい。だから一汁一菜で良い。っていうのは、今この時期を経て、尚更、心に響きます。」


土井さん「そうです。料理するっていう事は自立なんですよ。」

小野寺「自立…。」

土井さん「うん。野菜を作るっていうのも自立でしょ。何に頼らなくても自分で生きていけるっていう自信を持ったら、人に優しくできる。自立することが人との関係性を豊かにすることにつながる。 だから、まずみんな自立するといい。

 学生が一人暮らしをしていたら、家のお母さん、お父さんからからすると “あんたちゃんと食べてんの?” っていうのが親心としては一番心配なわけですよ。そこで子どもが、 “食べてるよ。味噌汁ぐらいしか作ってないけども” って答えたら、親は “うちの子しっかりしてるなぁ〜!” ってなるでしょう。笑

 それが、人間の本能の中に備わった、みんなのDNAの中にまで組み込まれている、同じものを見て喜べる力、ですよ。昔、「同じパンを食べる人々」っていう概念がありましたけど、それは、共通善を持ってるっていうことなんですね。
 みんなが一汁一菜、日本中でご飯炊いて味噌汁を食べるってことをやってたら、みんなの中に共通善ができて、いいことと悪いことを区別できるようになる。食文化っていうのは、ある文化圏の中で共通理解を作るものでもあるんです。みんな専門が違うことをやっていても、相談すれば、分かり合えるようになる。相談できるっていうのは、正しいこと、こっちのほうがいいんじゃない?っていうことが共有できるって言うことでね。食事って、そういうところまで共有するものなんですよ」


小野寺「ありがとうございます。いやぁ、もっともっと聞いていたいんですけど、これ以上聞いたら涙が出ちゃいそうです(笑)」

土井さん「だから、小野寺さんがなさっていることは、とっても正しいことをしてますので、頑張ってください。応援しています。どうも。」

小野寺「ありがとうございます!」


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