音楽プロデューサー・松任谷正隆がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「トランスコスモス presents 松任谷正隆の…ちょっと変なこと聞いてもいいですか?」(毎週金曜17:30~17:55)。さまざまな分野のゲストを迎えて、新たな魅力に迫っていきます。
今回の放送のゲストは、音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」のメンバーで、作詞・作曲を担当するケンモチヒデフミさん。曲作りなどについて語ってくれました。
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(左から)パーソナリティの松任谷正隆、水曜日のカンパネラの“音楽担当”ケンモチヒデフミさん
◆“自分の音楽の価値”を考える
松任谷:ケンモチさんは「人がやりそうにないことをしないと、自分の音楽には価値がない」とおっしゃっていましたが、それは子どものころからですか?
ケンモチ:(2012年に水曜日のカンパネラのメンバーになってからも、しばらくは会社員として働きながら音楽活動をおこなっていたのですが)“会社員をしながら音楽を作っている”という自分の承認欲求というか、自己肯定感を高めるためでした。“俺は仕事をしているけど、音楽も作っているんだぞ!”と、肯定してあげられる理由の1つになっていました。音楽の勉強をしていたり、音楽理論を知っている人とは違う感性で音楽を作っているんだ、というこだわりみたいなものがあったら面白いかなと。
松任谷:そこがケンモチさん(の持ち味)ですよね。
ケンモチ:いまになってみればですけどね。いまは、たまたまそういうのが面白く見えていて、ラッキーだなという感じです。若いころは、そこがずっとコンプレックスでした。僕は楽器の演奏はそんなにできないですし、音楽理論も勉強しようとは思ったものの、途中で「よくわからないからいいや」ってなって、また感覚で作り始めて。音楽の素養みたいなものが、あまりない状態で作っているので、“もう、そこにはあまり深入りしないようにしていこう”みたいなところはありますね。
◆“音楽理論を知らない”からこそできる曲
松任谷:ケンモチさんは、最近のボカロ(ボーカロイド)世代や若い人たちの曲についてどのようなことを感じていますか?
ケンモチ:いまの若い人たちが作る曲は、曲中で当たり前に転調したりするのですが、僕は転調する曲の作り方はしなくて。最新ヒット曲とかを聴いては、「なんでみんな、こんなコード進行を考えられるのかな」「なんで、ここで転調しているんだろう?」などと感心しています。
松任谷:他の人の曲もけっこう聴きますか?
ケンモチ:いっぱい聴いています。
松任谷:僕は怖いから聴かないですね(笑)。
ケンモチ:僕も怖いですけど、「いま直視しなければダメなんだろうな」と思って。
松任谷:僕のなかに、ひとつ結論めいたことがあって。想像を絶する転調は、あれは無知だからできるんだと思う。
ケンモチ:そうなんですか? 松任谷さんが聴いて、ああいう転調って音楽的に成立しているというよりも、ギミック的に聴こえたりしているんですか?
松任谷:いや、僕は「音楽的」なんてものは、世の中にないと思っていますよ。
ケンモチ:それはどういう意味ですか?
松任谷:僕が小学校のときに、音楽の「和声」の授業で「ビートルズのコーラスの付け方はあり得ない」みたいな話をされたのを、いまだに覚えていて。そんな音楽理論を知らないから(数々の名曲が)できた。それを知っていたら、普通のコードや進行になっていたでしょう。知らなかったがゆえに、新しいものができたんですよね。そのほうが自由で面白い。だから(今の若い世代が作る曲の)転調なども、「うらやましいな」って僕はすごく思う。勝手な僕の解釈ですけどね。
◆水カンの歌詞に見る「組み合わせの暴力」とは?
松任谷:ケンモチさんが音楽づくりでテーマにしている「組み合わせの暴力」というのは、どういったことを指しているのですか?
ケンモチ:水曜日のカンパネラで言ったら「音楽性とまったく関係のない歌詞が乗っている」という組み合わせです。どちらかがカッコ悪くて、どちらかがカッコいいが共存する音楽って、ないわけではないのですが、そこに一番魅力を感じていて。
歌詞がカッコ悪くて音楽もカッコ悪いと、それは僕にとってもシンプルに“カッコ悪いな”というものになるんです。どちらかがカッコいいうえで、バランスよくカッコ悪いものが乗っている状態をいつも心がけています。それは音楽だけでも、言葉だけでも成立するときがあるんです。そういう不思議な感覚をいつも目指しています。
松任谷:上級ですね。
ケンモチ:そうなんですかね(笑)。全部カッコいいものって、カッコつけすぎていて(逆に)カッコ悪く見えるときがありますよね。
松任谷:その通り。たとえば、すごくカッコいい人が、カッコいいスポーツカーから降りてくると「なんだこいつ」って(思ってしまう)。だけどボロボロの車から降りてきたら「あれ?」っていう奥行き(を感じる)というか。
ケンモチ:親しみというか、そこがチャーミングに見えたりもしますよね。
◆ChatGPTで歌詞づくり
松任谷:ケンモチさんは最近、どんなことをされていますか?
ケンモチ:歌詞を考えるときに、巷で騒がれている「ChatGPT」(※アメリカのOpenAI社が開発したAI(人口知能)チャットサービス)とかを試験的に導入してみて、どういうふうになるのかな? ということは試しています。
こういう言い方が正しいのかわかりませんが、まっとうな歌詞はすぐに出てきます。たとえば「大きな海」とか「広い空」とか「希望を持って前に……」とか、いままで蓄積されてきた歌詞の情報を引っ張ってきているような、きちんとしていて、“これはいい歌詞になりそうだな”というものはけっこう出てきます。
そこをベースに、水曜日のカンパネラっぽさや、自分らしさのようなものを入れ替えたり、作り変えたりしていきます。崩れていない“きちんとした文章”を1回提供してもらうという意味では、ChatGPTは使えるなと。
松任谷:たとえば、ChatGPTに希望いっぱいの歌詞と、絶望的な歌詞の両方を考えさせて、それをミックスさせることもできるんですか?
ケンモチ:できると思います。絶望的な歌詞も、これまで人類が作ってきた絶望的な歌詞の集合知のようなものです。「こういう歌詞ありそうだな」というところに納まると思います。ただ、“突拍子のない絶望”みたいな歌詞は、人間が考える必要があるかもしれません。
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番組では他にも、ケンモチさんの音楽を始めたきっかけや、松任谷と「これからの音楽」について語り合う場面もありました。
<番組概要>
番組名:トランスコスモス presents 松任谷正隆の…ちょっと変なこと聞いてもいいですか?
放送日時:毎週金曜17:30~17:55