あぐりずむ

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蚕が“カビを感知するセンサー”に!? 東京農業大学が「昆虫の嗅覚」を研究する理由とは?

川瀬良子がパーソナリティをつとめ、日本の農業を応援するTOKYO FMのラジオ番組「あぐりずむ」。毎週火曜は、農業はもちろん、時代の先を捉えるさまざまな研究をおこなっている東京農業大学の農学研究を紹介します。8月1日(火)と8月8日(火)の放送では、イノベーション農学分野 生物機能開発学研究室の櫻井健志(さくらい・たけし)教授に、研究領域の1つである「昆虫の嗅覚」について伺いました。


(左から)川瀬良子、櫻井健志教授



◆昆虫は嗅覚が発達している!?

「実は、昆虫は嗅覚がとても発達している生き物です」と櫻井教授。そもそも、人間などが持つ“鼻”の構造ではないと言い、「ほ乳類の場合は、その辺を漂う化学物質を鼻で吸い込むと、鼻の奥に化学物質をキャッチする細胞があり、それとにおいがくっつくと“においがきた”と分かるのに対して、昆虫は、“においを嗅ぐ細胞”が触角にあります。0.01mm ~0.1mmぐらいの小さな毛が生えていて、その一つ一つのなかに、においを嗅ぐ細胞が入っている仕組みです」と解説します。

このにおいを嗅ぐ細胞によって、昆虫は自分の食べ物や交尾の相手を探したり、天敵が発するにおいをキャッチして逃げたりしています。また、昆虫の種類によるものの、例えば、夜行性の昆虫だと光の情報はほとんど使えないので、においの情報を通じて、自分のいる環境がどういう状態かを把握しています。

ちなみに、昆虫には目がありますが、視力がそれほど良くないため「動くものには(目が)追いついていけるんですけど、いわゆる細かく見ることはあまりできないので、周りの環境を把握するために(嗅覚を)すごく使っています」と話します。

さらには、触角の形も昆虫によって違うそうで、「人間はにおいをクンクンと自分から嗅ぎにいくことができますが、昆虫はそれができないので“いかに空気中にあるにおいを触角で探り当てられるか”ということが大切なんです。なので、触角の表面積を広くしてみたり、細長くして飛びながらでも嗅げるような昆虫がいたりするので、そういった昆虫ならではの工夫を見つけられるから面白いですね」と語ります。

◆昆虫の嗅覚の研究で、私たちの暮らしが変わる?

では、この研究が私たちの暮らしにどのように応用されるのでしょうか?

櫻井教授いわく、昆虫は人間が感じるよりも敏感ににおいをキャッチしているケースがあると言います。例えば、ショウジョウバエは発酵している果実などに卵を産むのですが、その果実にカビが生えているとカビの毒で幼虫が死んでしまうため、カビが発するにおいを感知することで本能的に避けているそうで、「我々は、こういう昆虫の高性能な嗅覚を、生活のなかでセンサーとして使えないか、ということを研究しています」と話します。

先述のカビの例でいうと、「ショウジョウバエから、カビのにおいを嗅ぐセンサーとなるたんぱく質を採取し、(カビのにおいを感知したことを)分かりやすく教えてくれるものに置き換えることができれば、カビが生えたことをを教えてくれるセンサーになる」と解説。

そして現在、そのセンサーとなる候補として蚕(カイコ)を挙げます。「蚕は、オスがメスの出すフェロモンを嗅いで(交尾相手を)探すんですけど、生き物のなかで(においをかぎ分ける)性能が最も良いと言われるくらい高感度な嗅覚なんですね。さらに、ショウジョウバエの遺伝子を蚕に導入することができるんです。そうすると、(蚕が)カビのにおいを探してくれるようになるので、探知犬のようなイメージで、蚕をセンサーとして使えるようになります」と櫻井教授。

そして、「夏場になると“水道からカビのにおいがする”ケースがありますが、(研究が進んでいけば)その場で(蚕が)行動などで(カビのありかを)示してくれる、という利点があるんです。そのほかにも、例えば、爆発物に反応する昆虫から、そのにおいを嗅ぐ遺伝子を採取して蚕に取り入れることができれば、爆発物を探してくれるセンサーにもなる」と、「昆虫の嗅覚」の未知なる可能性を語りました。

<番組概要>
番組名:あぐりずむ
放送日時:毎週月曜~木曜 15:50~16:00
パーソナリティ:川瀬良子
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/agrizm/