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“クマは積極的に人を襲う”は間違い!?東京農業大・山崎晃司教授「“クマは臆病な動物”というのは間違いない」

川瀬良子がパーソナリティをつとめ、日本の農業を応援するTOKYO FMのラジオ番組「あぐりずむ」。毎週火曜は、農業はもちろん、時代の先を捉えるさまざまな研究をおこなっている東京農業大学の農学研究を紹介します。10月10日(火)と10月17日(火)の放送では、森林資源保全学分野 森林生態学研究室の山崎晃司(やまざき・こうじ)教授に、「クマ出没増加の意外な背景」「クマの生態」について伺いました。


(左から)山崎晃司教授、川瀬良子



◆クマが増えている背景とは?

近年クマが増えている理由の1つとして、山崎教授は森林の使い方が昔と比べて大きく変化したことを挙げます。例えば、1940~50年代ぐらいまでは、焼き畑、萱場、製鉄業などの産業の燃料木として多くの木を伐り、炭や薪にしていたこともあって「クマをはじめ、シカやイノシシなどの森林性の動物にとって住めるような環境は、数百年の単位でなかった」と言います。

しかし現在は木の使用が減ったことに加え、海外から木材が安く輸入されるなどの時代の変化もあり「森が人間によって使われなくなったので、もともと“はげ山”“荒れた山”だったのが元の森林に戻ってきた。そうすると、森林性の動物にとってはうれしい事態。しかも、(昔に比べて)人口の一極集中が起こっていますので、山に行くと人が住んでいない。つまり今は、数百年来に訪れた“黄金時代”。減る理由がない」と説明します。

そんななか、クマに関する管理の仕方は「飛躍的に改良されてきています」と山崎教授。しかし、その努力を上回る勢いでクマが増えており「行政は目先のクマを捕獲するだけで精一杯の状況が続いている」と明かします。

山崎教授によると、現在一番簡単な方法は罠を仕掛けての捕殺。そのほか、麻酔薬を用いて安楽死させる方法があるものの、麻酔薬や麻酔を投薬する道具などのコストが高く、基本的には自治体の負担ということもあり「裕福な自治体じゃないとできない」と指摘。

ちなみに現在、北海道庁の推定で北海道に約1万頭のヒグマ、山崎教授の感触では本州に6~7万頭のツキノワグマが生息していそうとのことです。

◆意外と知らない“クマの生態”

続けて、山崎教授は「一般論として、クマは臆病な動物というのは間違いない」と明言。クマが人を襲ったニュースを見聞きすることが度々あるため、どう猛なイメージを抱きがちですが「クマは積極的に人を襲うわけではない」と言います。

「我々は“防御的攻撃”と呼んでいて、例えば、近い距離で人とバッタリ会ってしまったときだったり、(人間が育てた)農作物を食べていたりとか、何か後ろめたいことをしているときに、驚かされたら“ビクッ”としますよね(その拍子で襲ってしまう)。特に子どもを連れているメスグマは人に対する許容度が下がってしまうので、自分や子どもの活路を見出すために襲うこともあります」と解説します。

この話に川瀬が「クマのなかにも、農作物を食べることが“悪い”という認識があるのですか?」と質問すると、山崎教授はクマの心理状態について言及します。

「“悪い”という認識はないと思いますが、普段から生活しているすみかではない畑や人里などは、(クマにとっては)アウェーですよね。例えば、子どもの頃に自分の遊び場から遠く離れた場所で遊んでいると、夕暮れになるに連れて不安になりますよね。つまりクマも(アウェーな)場所では、そういう心理状態で行動しているんだと思います。ですから、人里に出てきているときと山にいるときのクマの行動は違うと思います」と話します。

また、出産に関する生態についても。山崎教授いわく、クマは隔年ペースで1回に1~2頭を出産するそうで、「メスが子どもを産んで1年半ぐらい世話をするので(出産は)最短で2年周期ぐらい」と解説します。

そして、もう1つ注目すべきは“着床遅延”という特有のメカニズムです。通常の動物は、受精したらすぐ子宮に着床して、胚の発達が始まりますが、「クマの場合、初夏に交尾をして受精卵ができた後も、(精子が)子宮内をずっと泳いで、着床せずに遅延するんです。その後、おそらく12月ぐらいに初めて子宮に着床、1月下旬には出産しますので妊娠期間は1ヵ月半ぐらい。ですので、子どもは握りこぶしぐらいの大きさの未熟児で産まれます。小さく産んで大きく育てるのがクマのやり方」と山崎教授。

さらに、クマは冬眠をするため「(メスグマは)秋にどれぐらい食べられたかによって(子宮内をずっと泳いでいる)受精卵を着床させるか、あるいは流してしまうかを決められるんです。妊娠は母体に負担がかかりますので、もし秋に食べられなかったときは、子どもより自分が次の年も生きていることが大事なので、そちら(流すこと)を選ぶと考えられています」と語ると、川瀬は「不思議が一杯……すごいメカニズムですね!」と驚きの声を上げていました。

<番組概要>
番組名:あぐりずむ
放送日時:毎週月曜~木曜 15:50~16:00
パーソナリティ:川瀬良子
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/agrizm/