音楽と言葉を電波に乗せて、東京の空へ。
それは、街の色や匂いとまざりあいながら、人々の胸に、降り注いでゆきます。
50年の間にいくつも結ばれてきた、ラジオと誰かの幸福な関係を、もう一度。
街を歩けば、“あのとき”が鮮やかによみがえります。

突如、日常が「非常時」になってしまった2020年。
“３密”“ソーシャル・ディスタンス”“クラスター”といった言葉が飛び交う中、真っ先に活動の自粛を余儀なくされたのは、エンタテインメント業界でした。
中でも、人が密集し、密閉された空間で、密接に関わりながら物語を共有する演劇文化は、軒並み公演を中止、または延期を余儀なくされます。
そんな1年を、舞台人はどんな想いで過ごし、志を新たに、ふたたび、新たな一歩を踏み出したのか・・・。
そこで、2021年、最初の「True　Stories」は、劇作家・演出家・俳優で、プロデュース集団「阿佐ヶ谷スパイダース」を主宰する長塚圭史さんと、街を歩いてみました。


1975年・東京生まれの長塚さんは、父で俳優の長塚京三氏の影響もあり、高校時代は演劇部に所属。
舞台づくりの面白さに目覚め、早稲田大学在学中の96年に、プロデュース集団「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成します。
同時に、テレビドラマの脚本執筆や映画への出演など幅広く活躍。
2008年には、文化庁の新進芸術家海外研修制度にて、ロンドンへの留学を果たします。
帰国後も新進演出家とて様々な作品の舞台制作・演出に取り組み、数々の賞を受賞。
日本の演劇・エンターテインメント界の次世代を担う存在として、精力的な活動を続けています。

今回は、そんな長塚圭史さんのルーツを探る、街歩き。
昨年、11月、風の強い晴れた日、高田馬場駅の戸山口で落ち合わせをして向かったのは、長塚さんの母校、都立戸山高校へ向かう途中にある、都立戸山公園でした。
黄色く染まった落ち葉が一面に広がる小道を歩く長塚さんの脳裏には、当時、お付き合いしていた同級生の彼女との強烈な思い出がよみがえります。
演劇と、恋と、音楽と。
充実した高校生活を過ごしたのち、長塚さんは早稲田大学へ進学。
戸山公園を通り抜け、明治通り沿いの母校・都立戸山高校の門を眺めながら、早稲田大学・戸山キャンパスへと歩みを進めます。

そこで過ごした濃密な日々は、1996年に結成することになる「阿佐ヶ谷スパイダース」の、“プロデュースユニット”という活動のあり方に影響を与え、刺激的な作品を発表し、話題を集めることになりました。

ところが、2018年には、「劇団」として再出発することを宣言します。
目指したのは、高校の演劇部時代、別の部活の友達に声をかけたときのような、おおらかでゆるやかなつながり。
「その時やれる人たちと面白い芝居を作る」という劇団の誕生です。
あるインタビューで、長塚さんはこう、語っています。　
「一緒に飯食うところから始めて、彼らの成長を見ながら共にものを作っていって。
お互いの顔をよく知って、お互いの手触りがある世界にいて、で、自分たちの生活と舞台を作るということがちょっと近づいてくる。
それがいいなって僕は思ってて」・・・。

そして、2020年・春。
役者が舞台に立ち、生き生きと語りかけることも、観客が歓声や笑い声をあげることも、叶わぬ日々へ。
演劇界は、苦境に立たされることになるのです。　　

来週は、「阿佐ヶ谷スパイダース」の活動を本格化させた芝居の街へ。
下北沢にある思い出の劇場を巡りながら、コロナ禍で感じた演劇人としての葛藤と、改めて実感した、演劇がもつ力について語ります。