パイナップル王子の有機パイナップルへの挑戦と情熱

農業生産法人 有限会社やえやまファーム 農産部 部長 山中広久さん


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やえやまファーム、農産部部長の山中です。よろしくお願いします。

 

~やえやまファームのパイナップルは日本唯一の有機パイナップルで、絶対不可能だと言われていたのに可能にしたと伺ったんですけれど、
その辺りの経緯などについて教えていただけますか?~

 

はい、まず有機栽培においてパイナップルがなぜ難しいかというと、パイナップルは植えてから収穫するまでに約2年ほどかかります。

その間に農薬が使えないということは、農薬の代表である除草剤が使えません。
そうすると草を枯らすことができないので、1本1本人の手で抜くことしかできないといったところで、
まず労力的なところでできないのではというのと、あとは肥料の問題ですね。1935年くらいからパイナップルは盛んに作られてきたんですけど、やはり化学肥料を中心に栽培されてきました。その中で有機肥料だけで栽培すること自体が難しいと言われていて、なかなか挑戦する人すらいなかったことが、不可能と言われていたのかなと思います。あと、農薬に関しては、開花処理といって、パインの株、葉っぱの状態から実をつけさせるためのホルモン処理と呼ばれる農薬があるんですけど、有機栽培の場合はそれを使うことができません。そうすると植え付けたものに対して、自然の力、その株の、その子の持つ力でしか花と実をつけることができないので、そもそも100株植えても30玉くらいしか実がとれないという、歩留まりの悪さでもなかなか有機栽培をやる人がいないという流れになっているのかなと思います。

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~それも新しい挑戦に感じるのですが、実際それが可能になってパイナップルを作られていますけれど、今でも苦労がありますか?~

 

可能になっているとおっしゃっていただいたんですけど、本当に可能になっているのかというところなんですが、まだまだ栽培技術が安定していないのと、あと、やっと今年で植え付けたものが7割ほど実をつけることができたんですが、それが可能と言える数字なのかというところでは、伸び代がある業界ではありますし、有機パインにとっても、まだまだ伸びていかないといけないところだと思います。あと、販売面でも、価値がついて、高単価で売れるようになれば事業として成り立っていくかもしれないんですが、何を持って可能なのかというのが見えない業界かなというところがあります。

ただ、自分の中でのできているのかなというところでは、やっぱり自然の力で育てているので、個人的にはなんですけど、食味豊かで自然の味わいを感じていただけるものにはなっていると思うので、それだけをフォーカスすれば一応成功しているのかなとは思います。

 

~牧場の島田さんにお話しを聞いたとき、有機パインは育てる側にとってもとてもいいとおっしゃっていたのと、でもすごくコストもかかるのかなと思うのですが、その辺りいかがですか?~

 

そもそも私自身が有機栽培をやりたくて石垣島に来たというわけではなく、パインを栽培していたわけでもないんです。静岡でレタスを栽培していて、その中で自分自身の身体が、どうしても除草剤をまいた次の日に嘔吐したり、咳き込んだり、肌がかぶれたりという症状がでる中で、まず、イチ生産者でもあるのですが、消費者という立場に立ったときに、少しでも安心安全なものってなんだろうって考え始めて、知識はなかったんですが、なんか有機って良さそうだなと思って、調べ始めたんですね。

実は農業を始めた時、野菜とか果物はそんなに好きではなくて、あくまでも仕事として農業を選んだにすぎなかったんです。でも、マンゴー好きだなと思って、有機マンゴーって調べたら、やえやまファームがヒットして、パイン栽培をしていたからたまたまパインになったという流れなんです。

有機のゆの字も知らなかったんですけど、やっているうちに、農薬を使わないと吐いたりしないないんだなとか、変なストレスを感じなくなっていました。

 

へー

 

もちろん自然相手なので思い通りにはいかないんですけど。始めて8年なんですけど、やっと8年目にして、そもそも自然に勝とうとしていたのが間違っていたんだなと思いました。自然をコントロールするのではなく、自然に身を任せて、自然に寄り添って、パインと一緒に成長するくらいの気持ちになった時に、コントールできないと思っていたストレスからある意味解放されて、自然がパインを育ててくれているんだなというのを理解したような気持ちでした。

そういった意味で、農薬を使わないことで、何よりも消費者以前にまず生産者が不健康ではなく、健康を手にしているというところが、すごく魅力ある仕事だなと思っています。

 

~お会いして思ったのが、ネックレスもTシャツもパインですよね。パイナップル愛に溢れていらっしゃる方なんだなと。パイン王子と言われていると伺ったのですが。~

 

はい、そうです(笑)。パイン以外のことは本当に考えられなくて。パインてひとつのことがわかると 10のわからないことが増える作物なんです。生涯、70、80歳までできるかわからないですけど、本当に時間がないなと思うばかりです。

パインは植えてから2年後しか結果を見ることができないので、嫌でも2年いないといけない間に、また次の年も植えないといけない、そうするとまた植えた子の結果も見ないといけないので、抜け出せなくなっていて気づいたらそれが嫌いじゃなかったんですよね。どんどんパインのことを知っていくと、余計な知識まで入れるようになっていました。花言葉っていいなとか。

 

~花言葉なんですか??~

 

Welcome、歓迎という意味と、you are perfect、あなたは完全です、完璧ですっていう花言葉があるんですね。

ますますいい作物だなとか、あと、すごいコアな話になってしまうんですけど、フィボナッチ数列ていう数列がパインの中に隠されているとか、誰もあまり見ていないところまで興味が湧いてしまって。知れば知るほど深みにハマってるんですけど、1+1=2、1+2=3、2+3=5、3+5=8っていう、だんだん足していく数列があるんですけど、実はパイナップルはそれが隠されています。

 

え!

 

パイナップルの松果体と呼ばれる、粒になっているところの列を数えていくと5粒あって、反対側の長い数列、ハシゴみたいになっている方を数えると8粒あったりします。一番上の葉っぱがある付け根の部分の、長い方の数列が5だったら、短いほうが3みたいな形で、実はそのフィボナッチ数列が隠れている作物なんです。

これはどんな関係あるのかというのを調べていて、このフィボナッチ数列が綺麗にあった方が美味しいんじゃないかということを最近思い始めました。1個1個数えてみて、自分の舌なので確かなものではないのですが、数列が整っていた方が、なんとなく食味のバランスがいいというのが最近思うところです。

特に旬な時期からちょっと外れてしまったものに関しては、その数列自体が崩れてしまっているので、本当に、より自然なものの方が食味豊かなのではと最近思っています。

 

大変かもしれないですけど、それが、美味しいパイナップルの見分け方にできるかもですね。

 

そうですね。いずれそういう基準もあってもいいのかなと思います。日本の農業って、野菜や果物の見た目の良さというものもあると思うので。本当に完璧なパインを目指したいと思っているので、細かいところまですごく考えています。パインが好きではあるんですけど、パインにしてやられたというか、ハマってしまったというか、抜け出せなくなってしまったというような状態ですね(笑)

 

パインの手のひらで転がされている感じですね(笑)

 

どちらかというと、そうですね、転がっているかもしれない(笑)

 
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~すごく愛を感じたのですが、いつからいつまでがパインの旬なんでしたっけ?~

 

有機パインの場合、ホルモン処理ができないので、6月の頭から7月の末が収穫時期になります。

 

~石垣のふるさと納税の返礼品でも、パイナップルのジュースが飲めると聞いたのですが。~

 

今は有機パインを絞ったジュースはなくて、2年後再スタートします。今作っているジュースは石垣島内のパイン農家さんから仕入れたものを、独自のクラッシュ製法といって、粒して一番美味しい皮のところまで絞っていただけるような製法でジュースを作っています。私自身も本当に好きな一品で、パインのおいしさがそのまま閉じ込められたジュースになっています。このジュース飲むと、他のパインジュースが飲めないくらいに本当に美味しいと思っているので、ぜひみなさまにも楽しんでいただいて、そのパインジュースを飲みながら、夏の生のパインもしっかり食べていただければと思います。

 

~有機パインの栽培のお話でもおっしゃっていましたけれど、石垣の天候とか気候がすごくいいものが育つ手助けになっているということなんですが、パインにとって石垣の気候がどのようにプラスになっていると思いますか?~

 

石垣島でやえやまファームが作っているパイン畑には、自社の畜産部から牛糞堆肥を運んできています。牛糞堆肥と呼んでいますが、堆肥にする施設がないので言い方あれですが、ほぼうんちの状態で、ここ崎枝の畑にやってきます。それを農産部のメンバーで二次発酵させてから畑で使っています。

資材も人が口にできるものでやりたいよねということで、今は「愛媛AI」という、愛媛で開発された資材を使っています。その資材の中には、納豆、ヨーグルト、ドライイーストなど、本当に人が口にすることができるものを、グラニュー糖で培養したものを牛糞の上にかけまわして、それを何回もひっくり返して、乾燥させて、十分発酵し終わったものを畑に還元しています。その牛糞をベースに育てているのですが、やはりそれだけでは生育が遅れてしまう子がいるので、そういった場合には、泡盛の酒造メーカーの請福さんのもろみカスを使用しています。そのもろみも、アミノ酸やクエン酸、糸状菌など、いろんな菌が豊富にありますので、それと愛媛AIを混ぜてパインに散布したり、土に散布したりすることで、自然の力を最大限活性化させるようなイメージです。

で、島の自然というところでは、人間は何もしなくても、この石垣島の太陽、そして、ここ崎枝は海が目の前にあるんですけど、潮風がほどよく吹いているので、風、あとは雨ですね、やはり水分がないとどうしても大きくなれないので、太陽と風と雨の力で実は育ってくれるんじゃないかなと。プラス、人間ができる小さなこととして、土を活性化させる、それは化学肥料などを入れるのはでなく、土の状態を良くしてあげることですね。

最近ちょっと感じたのが、人間でいう腸内環境を整えてあげるような感じかなと。まさにヨーグルトなどを使っているので、土の腸内環境を整えてあげることでパインの持っている力を最大限引き立たせてあげることしか、自分たちはできていなんじゃないかなという感じがしています。やっぱり石垣島の太陽と風と雨ですね。自然の力というのはすごく偉大だなと感じてます。

 

さっき牧場に伺った時もその超活のお話を伺って、人間も果物も牛や豚も同じだなというふうに感じました。作り手の方々のお話も聞いて、これから、そんな思いで作られているものだから大切に食べたいなと思いました。

 

ありがとうございます。

 

~山中さんのこれからの夢って、さっきのお話もそうですけど、やってみたいことはありますか?~

 

話がどんどん大きくなるんですけど、実は今品種改良を自分の中でやっていて、すでに何株かあるんです。

パインはそもそも生産者が違えば味も違いますし、同じ生産者の畑の中でも隣の子は酸っぱいけど、隣の子は甘いとかっていう個体差が大きいんです。

パインのファンがもっともっと増えたらいいなと思っていて、ひとりひとり好きになってもらえるような品種があっていいいと思っています。品種改良してできあがったものを食べていただいて、その人に名付け親になっていただくのもいいのかなって、ちょっと想像というか妄想を膨らましております。

 

へー、素敵ですね!

 

やっぱり全員にパインを好きになってもらうのは無理かもしれないですけど、できることはやるだけ無駄にはならないと思うので、そのきっかけ作りができたらと思います。自分自身も野菜や果物を食べなかったのが、石垣島のパインを食べた時に感動していつの間にかハマってしまったので、そういうファンがひとりでも増えたらいいなと思っています。

 

石垣島以外の人がパインを食べに現地に来るっていうのがあるかもしれないですしね。そうするとよりたくさんの人が石垣島に来られるかなと思います。素敵なお話ありがとうございました!

 
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