自然との共生の意識から生まれた農業の”循環型6次産業化”

農業生産法人 有限会社やえやまファーム取締役 畜産部 部長 兼 牧場長 CSV・広報担当 島田洋平さん

やえやまファーム畜産部の島田と申します。

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よろしくお願いします。

 

やえやまファームは、牧場、農場、そして加工場とありますが、広さはどのくらいのありますか? 場所は2ヶ所にわかれていると思うのですが。

 

それぞれ35haくらいあります。

 

それって具体的にどのくらいの広さですか?

 

大体東京ドームが16.7個分くらいですね。

 

広いですね。実は今日到着して天気予報は晴れで雨予報もないんですけど、今牧場の事務室でインタビューを収録させていただいているんですけど、今ちょっと雨が降っていて、音も入っていると思います。石垣の天気って、こうやってスコール的に雨が降ることって多いんですか?

 

そうですね、天気予報では晴れでも、このように局所的に雨が降ることがよくあります。みなさん来られるまではピーカンだったんですけど、来られた瞬間に大雨になりまして、連れてこられたみたいですね(笑)

 

確かに石垣に着いてから、雨に降られたり晴れたりの繰り返しで、こういった気候も石垣の特徴とか思うんですけど、その辺の話も後で伺えればと思います。まず、やえやまファームは2002年設立ということで、20年以上の歴史になると思うんですけど、いろいろなことにチャレンジされていて、一番特徴的なのが、土と肥料を作るところから作物を育てて、加工して販売と、一貫して行われていると思うんですけど、これが循環型6次産業というんですよね?

 

6次産業化自体は、10年以上前から着手しているんですけど、もともと環境課題への意識っていうのが当社だけではなく、世界中で高まっていたと思います。その中でやえやまファームも、環境への取り組みのひとつとして、自然との共生っていうのを目指して農業に着手しています。だた、この事業を継続していく中で収益化を目指していかなくてはならないというところで、6次産業化に進化させて展開し始めたというところですね。2013年にロート製薬がやえやまファームに参画して、それ以降から循環型という方式を取り入れています。

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土から作るということなんですが、実際にやえやまファームでの流れで、土から作ってそれがどうまわっているのかというところをご説明していただいてもいいですか?

 

もともと土から作るといっても、石垣島の土は酸性土壌が多くて、酸性土壌は熱帯果樹を育てるのに

すごく向いているんです。私たちが手がけているのがパイナップルの栽培です。ただのパイナップルの栽培ではなくて、有機農法で育てたオーガニックのパイナップルを育てています。

日本中探しても、オーガニックのパイナップル栽培というのはやえやまファーム以外で探してもなかなかないんですけど、有機でパイナップルを育成するっていうのはすごく大変なことなんですよね。パイナップルを私たちは成果として販売するケースと、加工をして、ジュースやジャムなど加工品の原料として使います。

ジュースはパイナップルを皮ごと絞る製法で作っています。最後に廃棄物として皮の繊維が余ってくるんですよね。通常であればこれを廃棄物として処理しなくてはいけないんですけど、これを処理せずに、私のいる牧場ですべて預かります。

これを一定期間発酵させて、この牧場にいる豚さんに餌として与えています。この豚は、毎日当然糞や尿をします。その糞尿を発酵させて、液肥として牧場内の広い牧草地にまきます。その牧草が育って食べるのは牛さんですね。この牧場には豚だけじゃなく牛もいるので牛の餌として与えます。牛もたくさん糞をするので、この糞を回収して、牧場の中で堆肥化します。これが土です。天然の無農薬の土ができあがるんですね。これを肥料としてまたパイナップルの畑に返していくという循環のモデルになっています。

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こちらは牧場なので、豚さんについておうかがいしたいんですけど、こちらの牧場で育てられている豚は「南ぬ(ぱいぬ)豚」というんですよね? 南ぬっていうのはどういう意味か教えていただいてもいいですか?

 

はい、石垣がある八重山諸島の方言で「パイ」は南という意味です。「ぬ」というのは、のという意味です。ですので、南の島の豚ということで、略して南ぬ豚というブランドネームにしています。

 

南ぬ豚は沖縄在来種のアグーの種をつかって生まれた子どもに、パイナップルの残渣を毎日与えています。

パイナップルの残渣だけを与えているかというとそうではないんですけど、一般的な豚用の餌に加えて、パイナップルの残渣を与えます。これはどういった役割をしているかというと、腸活です。人でいうところの、毎朝ヨーグルトとか納豆を食べる人もいれば、お味噌汁やキムチなどの発酵食品ですね。これを日常的にとることによって、腸活が進んで腸内環境がよくなる。豚も同じで、毎日毎日少量でいいので与えることで糞尿があまり匂わなくなったり、強いては体内の臭みがとれてまろやかな味に仕上がるということです。

 

豚さんも超活をするんですね! 興味深いお話でしたけども、その南ぬ豚のハンバーグが絶品だと聞いたんですけれど。

 

ありがとございます。おそらく、南ぬ豚の「網脂ハンバーグ」のことだと思うんですけど、南ぬ豚のお肉を使った、この商品が弊社でのロングヒット商品になっています。大体ハンバーグというと牛のハンバーグか、牛と豚の合い挽きが多いと思うんですけど、このハンバーグは南ぬ豚100%で作っています。

もともとアグー豚というのはジューシーで脂身が美味しい種類なんですけど、脂身が調理中に逃げていかないように、豚の腸の中に網脂っていう膜があるんですけど、それを綺麗に剥がして職人さんがひとつひとつ手作りで仕上げているんです。それによって焼きながらも美味しい肉汁が逃げないような構造になっていて、食卓でナイフを入れた時に、肉汁がジュワッとしみ出すようなハンバーグになっています。

 

あぁ、食べたい…(笑)。こちらはやえやまファームさんのオンラインショップでも購入できますし、石垣市のふるさと納税の返礼品にもなっていると聞きました。

 

はい、そうです。

 

ぜひチェックしたいなと思うんですけど、と言っている間に雨があがりました。石垣島って畜産にも農産にも向いている気候だと伺ったのですが、雨が降ったり晴れたりとか、海が近いことがいいものが育つための一助となるということってどういうことなのか詳しく伺いたいです。

 

石垣島は海に囲まれていますし、年間の平均気温が25℃くらいあって、いわゆる冬がこないんですよね。住んでいる私たちにとっては、12月1月2月は寒いと感じるんですが、内地の方の気温と比べたら全然あったかいです。年中ミネラルたっぷりの気候で作物が育ちやすいということがありますね。なので、食物を栽培したりとか、牛さんの栄養源となる牧草も年中育ちますし、とても畜産や農業に向いている島だと思います。

 

ちょうど雨も上がったので実際に牧場の方を見させていただいて、後ほどその状況とかもお話を伺えたらと思うのですがよろしいでしょうか?

 

ぜひご案内させてください。

 

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まず豚の方から行きますね。これが豚の糞尿が一時保管されるところです。ぶわーっていってるのが、ブロワーって言って、液体に空気を送り込んで、酸素を混ぜています。

今見えていますのが南ぬ豚たちです。毎日パイナップルの発酵残渣を食べています。

 

わー。今はおやすみタイムですかね?

 

そうですね、お昼寝タイムですね。今静かです。大きい子から小さい子まで見えると思うんですけど、親豚から子豚まで常時500頭くらい飼育しています。

今見えましたのがアグー豚です。こちらがお母さん豚です。お母さん豚大きいでしょ?

 

そうですね、けっこう大きい。全然違いますね。

 

イメージしていた豚よりスリムじゃないですか?

 

そうですね!

 

ウエストがきゅっとしていてスリムなんです。

 

メリハリボディですね。

 

そうですね。お母さん豚は肉豚にすることが目的ではないので、あまり太らせすぎると子どもを産むときに難産になってしまって、お母さんも子どもも非常に危険な状態になってしまうんですね。事故も起こりやすくなって。あまり太らせすぎずに、健康維持できるベストな体型を保つのが職人さんの技です。

 

なるほど

 

牛なんですけど、歩きながらざっと紹介すると、こちらが子牛専用のカーフハッチという設備ですね。みんなちっちゃい子たちです。生まれて約1週間からスタートして、約3ヶ月間はこのハッチの中で育てます。1頭1頭区切られていること、そして高床式になっていることで、衛生的に管理することができますし、1頭1頭のその時の食欲の変化とか、糞尿に異常がないかっていうのが見分けがつきやすいってうのがメリットです。

ここが育成肥育牛舎ですね。そのまま繋がっていくんですけど、カーフハッチで育てられた牛たちが3ヶ月経過するとここの牛舎に移動してきまーす。

で、このへんが肥育牛っていうんですけど、肥やす育てると書いて肥育牛といいます。その完成の時期ですね。

 

へー

 

大体28ヶ月くらいです。体重でいうと800kgくらいあるかな。

 

ひゃー

 

やえやまファームの育成肥育牛にはある特別な餌を与えています。一般的な輸入穀物の餌に対してアプローチをして作るんですけど、環境に配慮した餌作りをしています。

さっきの豚の方では、自社でとれたパイナップルを加工して、その残渣を発酵させて豚にあげるという循環をしていましたけど、牛の方では、島内の産業とうまくペアリングして使っているものがあります。その中のひとつが泡盛カスです。

 

あー、はい!

 

島内のいくつかある泡盛メーカーの中の1社から出る泡盛カスを、すべてこちらの牧場で引き受けています。泡盛カスというのはいわゆるもろみカスなんですけど、1リットルの泡盛をつくるのに2リットルの泡盛カスが出るそうなんですよ。

 

えーーー!

 

だから、全部の量になると大変な量なんですけど、そのすべてを引き受けて、この広い牧草地の栄養分としてまいています。一部新鮮なものは、こちらの餌の中に配合してあげています。

 

先ほど、酒粕の香りがする気がしたんですけど、気のせいではなかったですね。

 

気のせいではないです。お酒の香りもするし、あとどこか甘い香りもしませんか? これがサトウキビ工場から出る糖蜜というサトウキビの副産物ですね。これも餌の中に入れています。

 

なるほど!

 

その他には石垣の塩という、島内で有名な塩メーカーがありまして、そちらの副産物をこの餌の中に配合させていただいて、これも一定期間密封させて発酵することで牛たちが腸活できるようにしています。

 

なるほどー、牛も豚もどちらも石垣(のもので)でできているって感じですね!

 

そうです。これをするといいことが、嗜好性が上がって牛が喜んで食べてくれるということです。

 

やっぱり味が違うのがわかるんですかね?

 

そうですね、やっぱり好き嫌いが牛にもあります。それだけではなくて、もともとが島内の産業廃棄物や副産物を餌に再利用していることで処理にかかるエネルギーコストとか、その他諸々のコストも削減できるというよさもあります。あとは、この餌を食べ与えられた牛の、呼気を図ったんです。牛って、ある環境課題のひとつがうたわれているんですけど、それは何かと言ったらメタンガスです。

 

あー、聞いたことあります。

 

牛のゲップにはメタンガスが含まれていて、このメタンガスが大気中、空気の上に上がっていって、オゾン層を破壊していると言われていますよね。この牛から出るメタンガスが、この餌を食べていた牛は減っていたということが、調査した結果わかりまして。

 

へー!

 

結果、使っているもの自体が廃棄物、副産物を再利用している。牛も喜ぶ。メタンガスも減っているということで、とてもいいことが連続して繋がったなということで、私はこれをE畜産と名づけています。勝手に。

 

いいネーミングだと思います。

 

E畜産はエコロジー、エコノミー、エシカル、そして、エンバイロメント、環境というところを掛け合わせてE畜産としました。これを石垣、そして沖縄、日本全国の畜産業界に波を広げていくことができたらいいなと、夢として思っております。



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