3代続く老舗泡盛メーカーの挑戦

株式会社池原酒造 代表取締役 池原優さん

 
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池原酒造は72年続く老舗の酒造所で、現在3代目の池原優さんが活躍されています。こちらで造られている2種類の銘柄は、どちらも、創業当時からある銘柄だと伺っているのですが。

 

創業当時、まず「白百合」がメインであって、その数年後に「赤馬」ができました。2年くらい前から「Shirayuriイヌイ菌仕込44度」とか、新しいものも出して、今は3、4種類造っています。

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白百合は石垣の代表的な泡盛だと思うんですけど、美味しい飲み方はどんな飲み方ですか? やっぱりそのままがいいですかね?

 

泡盛って飲み方がとても幅広くてですね、最近では水割りとかソーダ割りがいいですね。大昔、泡盛の歴史って600年前まで遡るんですけど、その時は氷もないので、ロックとかソーダ割りはできないですよね。当時はチブグヮーって呼ばれる小さいおちょこみたいなもので、琉球王朝の王族たちはちびちびストレートで飲んでいたと言われています。

 

白百合はとても特徴のある味だと伺っているんですけど、どのような特徴があるのか教えていただけますか?

 

泡盛全メーカー、沖縄県内に全部で47蔵あります。47蔵の中で、一番飲みにくいというかくせがあると言われていたのが白百合でした。ここ最近はクセが薄れたと言われているんですけど、すごい飲みやすいものと、飲みにくいものと極端にあるのが白百合だったので、それで名前は結構売れて有名になったと思います。じいちゃんとばあちゃんの時代ですね。

 

へー、その全工程を今でも、昔から変わらず手作業で行っているということだったんですけど、泡盛はどのくらいの日数で、どうやってできるのかを教えていただけますか?

 

泡盛の原料ってご存知ですか?

 

お米ですよね

 

はい、タイ米を使います。歴史的背景もあってタイ米使ってるんですけど、黒麹がタイ米と相性が良くて造りやすくなっています。まずタイ米を蒸して、黒麹を蒸したお米につけます。そして2日間麹作りを行って、その後もろみと呼ばれる状態になります。そこで酒母と米麹を混ぜて、もろみを作って2週間発酵させます。そして発酵させた後アルコール度数が15度とか20度まで上がってくるので、その後蒸留という工程を経てお酒になります。なので3週間くらいですね。

 

72年続く老舗で泡盛を造りながら、さらに海外にも魅力が伝わっていて、昨年はアメリカ最大の出品数を誇る「サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション 2021」で、賞をとられたということなんですが、どんな賞なのでしょうか?

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はい、そこにある黒いボトルなんですけど、「Shirayuriイヌイ菌仕込44度」と言います。黒麹菌の中にも種類がいくつかあって、くせが強めの菌を使って出品しました。

2020年のコロナ禍で売り上げが伸び悩んでいた時期に、商品開発しないといけないなと思って、小さい蔵なので、いきなり樽酒とかサワーとかリキュールとかできないのでまずを菌を変えてみるところから始めてました。イヌイ菌という菌がうちの蔵とすごく相性が良くて、すごくいいものが仕上がったので商品にしました。それを飲んだバイヤーの方が、アメリカに出品しないかということで、まず、コンテストに出してみようと出したのがきっかけです。

 

最優秀金賞(ダブルゴールド)と「ベストオブクラス」と「ベストオブ焼酎」っていって、焼酎の銘柄、芋麦、米、泡盛、全ての中での最高得点で「ベストオブ焼酎」に選ばれました。


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石垣を越えて、世界に認められたと言っていいと思うんですけど、受賞された時の気持ちはどんなお気持ちでしたか?

 

ベストオブ焼酎の中には、みんなが知っている大手メーカーさんだったり、うちの売り上げの何十倍、何百倍と売り上げているメーカーさんもいたので、そこより高い点数が取れたっていうのは、僕以外にも関係者がまず驚いていて。ましてや何品か出店している蔵もある中で1品しか出していないうちが取れたのがすごくよかったです。その時は石垣の新聞やメディアにけっこう取り上げられて、テンション上がってました。

 

1本勝負でアメリカに持っていかれて賞をとったということで、自信はあったんですか?

 

まず出品自体が初めてで、テイスティングしてくれた人たちがどんな評価をしてくれるのかというのがまず楽しみだったので、点数は気にしていなかったです。

 

いいものを造って飲んでもらいたいっていう気持ちが一番ですね。老舗の酒造の方は、新しい挑戦をしなくても充分認められているものがあるからそれで通すのかなとも思ったんですけど、海外出品もそうですし、新たな挑戦をたくさんされていますね。泡盛を使った幅広い商品の開発もされているそうなんですけど、どういった商品がありますか?

 

そうですね、まず最初イヌイ菌を使って、それを使ったケーキだったり、酒粕を使ったお味噌とか鵜を造っています。

 

アイデアはどなたが考えたんですか?

 

うちの酒造はファンの方がすごく多くて、ファンミーティングとか、そういうところで生まれたものが多いです。

 

どういうものを皆さんが欲しいかというアイデアをもらって、それを商品にするということですね?

 

そうですね、あとは、2年前にクラウドファンディングをして、それで知り合った方とかからアイデアをもらったり、そこの人から今出資までしてもらって、株主をしてもらっています。

 

チョコレートに合う泡盛もあると聞いたのですが、チョコレートと泡盛って最初結びつかなかったので詳しく伺いたいです。

 

チョコレートに合う泡盛というよりかは、チョコレートにしか合わない泡盛です。

 

 

「チョコレート専用泡盛」という名前なんですけど、中身は15年くらい前のお酒なんですね。これもコロナ禍で、今ある在庫をどうにか売りたいっていうところからでした。すごいくせつよで、オイリーで、普通に出しては売れないものかもしれないというところで、チョコレートとか味噌とか醤油とか、色々合わせて飲んでみました。チョコレートの、中でもけっこう甘めのチョコレートと一緒に飲むと引き立つというか、むしろチョコなしじゃ飲めないよねっていうことになって、チョコレート専用で売っていこうということになりました。

 

チョコレートに出会うまで色々試されたということですが、泡盛と何かを合わせることでより飲みやすくなるはずと考えられたところがすごく新しい発想かなと思ったのですが。

 

お酒ってけっこう、ワインとか日本酒もそうなんですけど、ペアリングで、何かと一緒に飲むと味が良くなるっていうのがあるんですね。泡盛も昔から醤油とかお塩と合わせたらすごく味が変わったり、刺身と合わせたら水割りがすごく美味しく感じたり、からあげと食べるとソーダ割りが美味しく感じたり、何と合わせたら美味しいかっていうのは常に探してますね。

 

「チョコレート専用泡盛」に合うチョコレートも販売されているんですか?

 

はい、チョコレートは関係のある会社のものを仕入れて売っています。

 

伝統を守りながらも、新しいことへのチャレンジってすごく勇気がいることだと思います。昔からずっとファンでいてくださる方もいるし。そういった1歩を踏み出す時の迷いみたいなものはなかったですか? 前に進むきっかけがあったのでしょうか?

 

迷いは常にあると思います。じいちゃんとばあちゃんがずっとやってきて引き継いだのが7年前なんですけど、そこから同じことをずっと繰り返していくっていうのが僕的にはちょっと嫌だし、この先40年50年ずっとこのままじゃいけないなと。泡盛業界だけじゃなく、お酒業界全体の売り上げが落ちているんですけど、飲む人が変わっていくので、僕らも変わっていくべきだと思っています。

 

なるほど。軸はぶれずに、むしろ新しいものをやっていこうという気持ちですか?

 

そうですね。何をやっても応援してくれるファンが増えてくれるといいなと思っています。

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他の泡盛メーカーさんと新商品の開発を行っているということですけど、競合の会社と一緒に造っていこうとなったのは、やっぱり泡盛を盛り上げていきたいという気持ちだったのでしょうか?

 

最初にコラボをしたのは、石垣の地ビールのメーカーさんとで、泡盛とビールを割ったカクテルを造って、コンビニなどで販売しています。その他は、共同開発というよりかは、例えば、カップ酒を造りたかった時に、その設備はうちにはないので、それを大手メーカーのラインにお願いしたりとか。協働でイベントを開催して、そのイベントだけで飲める、何社かの泡盛を混ぜた泡盛サングリアを造ったりとか。

僕は、県内の47の泡盛メーカーの中でも一番若手なんですね。そして、可愛がられキャラでいってるんですけど(笑)。大手などは、会社が大きいから身動きできないことが多いと思うんですけど、小さい蔵だからこそできる早い動きをどんどんしていって、小さいメーカーのモデルとなれたらと思っています。

 

今後、泡盛がどのように広まったり、愛されたらいいなと思いますか?

 

日本国内でも泡盛の認知度は低いし、世界で見ると、泡盛を知っている人って全体の1%以下なんです。ウィスキーやワインは紀元前からの歴史があって、認知度が高いから日本でも売れています。泡盛は売れるとか売れないの前に知られてもいない状態なので、伸びる可能性がまだまだあると思います。

44度のハードリカーなのでカクテルの材料にも適しています。まだまだ、世界や、首都圏のバーなどに開拓できるところがあると思っています。

 

造られている過程のお話を聞いて、想像された方も多いと思うんですけど、酒造見学もできるんですよね?

 

予約制でやっています。直前でもあいていれば大丈夫です。ある程度の工程を5分くらいで見てもらって、試飲やチョコレートとのペアリングをしたり、そして、僕と一緒に写真を撮ってもらって(笑)。

 

・ここから工場見学

 

こちらはどのような作業をされているのですか?

 

最終段階の蒸留です。お酒を仕込んできて、最後にもろみという状態になるんですけど、それを釜に移して蒸留します。今から蓋を閉めてアルコール分を気化させて、冷やして液体に戻ったものが泡盛です。この釜は、地釜式蒸留機といって、直接鍋に火を当てて蒸留する伝統製法で、泡盛メーカーではなかなか見られなくなってきている昔ながらの蒸留方法です。

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すごくいい香りがしますね。

 

そうですね、これからどんどんアルコールが出てくるところで、出てき始めたら釜に蓋をして抽出をします。

 

これが70年くらい前から使っている蒸し器です。ここに網をひいて、タイ米入れて蒸します。蒸したお米は麹箱というところに移します。

 

わぁ

 

蒸し終わったら、最後のもろみの状態になります。こちら今絶賛発酵中です。

 

いい音ですね。

 

見学の方はこれをムービーに撮ったり、ここを離れたくないという人が多いです。

 

なんか癒される気がします。

 

冬の夜とか特にこの音が鳴り響くのですごくいいですよ。
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確かにー!

 

ここから2週間くらいかけてアルコールを造っていきます。これは櫂棒って言って、もろみを混ぜる機械です。これを混ぜると中にあるガスが出てきます。この音は炭酸ガスで、菌が活動している証拠です。この距離でもろみを見られる酒蔵ってあまりないので石垣きた際はぜひ聞きにきて欲しいです。蔵も70年の趣きがあると思います。

 

柱の組まれ方とか、とても趣きがあって素敵です。

 

こちらが瓶詰めルームで、1本1本ラベルも手貼りで、キャップも手締めでやってます。ラベルを貼るのも、タイミングが合えば体験できますよ。あとは試飲もできますのでぜひ。

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見学の料金は?

 

見学はただなんですけど、何か買って欲しいです!

 

商品も色々あるし、Tシャツもありますね。あと、オリジナル泡盛を造ることができる「仕込み買いプラン」があるんですよね。これ、めちゃくちゃ夢があるなと思ったんですけど。

 

今年の3月から始めたプランで、どういう味にしたいか、仕込みの段階から依頼主と話しあって、その仕込み分を買い取ってもらいます。うちの酒造りの最小ロッドはお米300kgの仕込みで、一升瓶で言うと200本くらい、金額は100万円から150万円ほどです。ラベルやボトルデザインも一緒に考えて、その人だけのブランドを造っていただきます。パーティーや結婚式のお返しなどの記念品にしてもらったり、販売免許を持っていれば売ってもらってもいいし、いろいろな使い方があります。今、2社に体験してもらっています。

 

お酒は簡単に造れないから、お酒が好きな人は憧れだと思います。味まで調整できるというのは貴重な機会ですよね。最後に、これからの夢やさらに挑戦したいことなど教えていただければ。

 

今年、いろいろな会社から出資を受けて頑張っているところなんですけど、さっき言っていた泡盛の市場開拓を小さいメーカーから率先してやっていけたらと。あと、首都圏などでイベントをやっているのですけど、まずはそこに参加してもらって、石垣島に来たいなと思ってもらえたら。島に人を呼べる酒造になりたいですね。

 

白百合はふるさと納税の返礼品でも取り扱われていますよね。

 

今年に入って、ふるさと納税の注文も増えています。石垣市も人口が5万人を越えたり、毎週何かイベントがあったり盛り上がってきています。うちのふるさと納税では、お酒ケーキや紅型、酒器などのやきものセットなども買えます。ぜひ納税お待ちしています。

 

 

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