「僕の家から花火は見えない」
書き出し:ラジオネーム 若気のイタリー
作:蓮見翔
声優:のぐちゆり、川島零士
川島 「今日は珍しく花火大会誘ってくれたけど、
お前、昔から花火なんで好きだったっけ?」
のぐち「いやー、普段はそうでもないんだけどね。
花火にも花言葉があるらしいって聞いて、見たくなったの。
あんたも家からじゃ見えないでしょ?」
川島 「へー、花言葉なんてあるんだ。何なの?」
のぐち「『口実』
川島 そう言って、彼女はいたずらっぽく笑った。
のぐち「花火が好きじゃない人がつけてるよね」
川島 「え?」
のぐち「花火を口実としか思ってないってことでしょ?
ただ花火が観たくて誘ってないってことじゃない?」
川島 「あぁ、たしかに」
川島 じゃあ今日はどっちなんだろう。
わざわざ言ったってことは口実なんだろうか、
でも彼女は言ってる今も花火に夢中だ。
僕の方なんて見向きもしない。
雑学として紹介したのか恋の駆け引きなのか
わからなくなってしまった。
なんで花火に花言葉なんてつけるんだ。
口実とついた途端、それは口実に使えなくなることに気付かなかったのか。
目先の情緒を目指したやつが、
余計な情報を足したせいで本来の趣が消えている。
せっかく花火が瞬間で消えてくれるのに、
いらない説明文だけが残る。
薔薇の花言葉に下心とつけるようなものだ。
ひとめぼれにも永遠の愛にもそりゃ下心は含まれている。花火も同じだ。
そりゃ会うための口実ではあるが、
花火自体を楽しみにしている気持ちだって全然あるのに。
漫画言葉みたいなものがあったとして、
興味ないけど向こうが持っている漫画、
の漫画言葉が口実ならまだわか
のぐち「終わっちゃったね」
川島 終わっちゃった。目で見ていただけで少しも花火の情報が
脳にいかないまま終わってしまった。
のぐち「このあとどうする?」
川島 「どうしようね」
のぐち「もう口実なくなっちゃったもんね」
川島 「え?」
のぐち「今度はそっちが作ってよ」
川島 そういうと彼女は駅と反対に歩いて行った。家に誘おうか。
僕の家から花火は見えないけど、葬送のフリーレンは全巻揃っている。
毎週水曜日26時~
JFN系列で生放送中
蓮見翔のAuDee CONNECT
脚本や小説において、読み手を物語の世界へグッと引き込む「最初の一行」。
つまり「書き出し」がとても重要です。
このコーナーでは、リスナーの皆さんから、
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毎月大賞に選ばれた投稿は、蓮見翔がその続きを執筆し、
完成した作品は、プロの声優の皆さんに朗読してもらっています。