ポケットティッシュ専門のサンタクロースから、僕は今プレゼントをもらったんだ。
そう思わないとやってられなかった。
イルミネーションがなくなって真っ暗になった二月の駅前は、クリスマスの夜よりも寒くなっている。
もっと遠くに引っ越してくれよ。節分だったことを思い出して、どうせならとお惣菜のコーナーが広い駅の反対口のスーパーに行ったのが最悪の選択だった。見覚えのある服を着た彼女の横に見たことのない男。カゴには恵方巻が二本入っている。お互い目があってしまい、すぐに沈黙。どちらか一方でも恵方を向いてたら皮肉なもんだと思った。向こうの男がなんとなく察して軽く威圧とれる距離感に詰めてくるが、こちらは攻撃するつもりなんかない。寂しくないフリだけしてその場を立ち去った。寂しそうな背中だけでも刺されと思った。
一ヶ月会いたくない。そう言われた時に気づくべきだった。一ヶ月たてばまたいつものように会えると思っていたし、ちょうど一ヶ月後がクリスマスだったから、そこできっと彼女はプレゼントを持って現れてくれるサンタクロースなのだと思っていた。でも実際はプレゼントも持たずにやってきた彼女は僕に別れを告げた。今年のクリスマスでサンタは終わり。むしろ26歳まできてくれていたことに感謝しないといけないのだろうか。新しい相手は幼稚そうだったもんな、もう何年かはサンタが来てくれるんだ。僕はもう、サンタになることを考え始めないといけない年齢なんだ。
家の前についてポケットティッシュを鞄にしまってかぎを取り出す。おかえりが聞こえない部屋を一人で歩く。カレンダーは1月のままだ。12月25日に書かれている自分の浮かれた文字を見るのが嫌で、年越しを待たずに12月を破ったままだ。年末の忘年会を一個忘れるし踏んだり蹴ったりだった。部屋の片隅に置いてある渡すはずだったプレゼントを渡せずにいる。僕の部屋だけ、時が止まっている気がした。今日動かないと、僕はずっとクリスマスにいる気がする。そう思って気づいたら走り出していた。
いや、走り出そうとは思った、でも気づいたら走り出していたみたいな衝動にみえるようなアクションが、自分にできることも少し驚きながら、家から近いスーパーに着く。節分のコーナーを駆け抜けて、銀のワゴンに申し訳なさそうに残っているシャンメリーを全部カゴに入れた。くしゃっとなったパッケージのサンタがこっちに微笑みかけている気がする。ちっちゃいクリスマスツリーの幹にラムネが入ってるのとか、お決まりのキャラクターがサンタ帽をかぶってるポテチとか、半額以上になっているクリスマスの残り物を全てカゴに詰めてレジに持っていく。俺がクリスマスを終わらせるんだ。
家に帰って無心で食べた。思っていたよりもクリスマスが遠ざかっていく。部屋の隅のプレゼントも箱を破る。部屋でできるプラネタリウムと黄色いマフラーに、久しぶりに会う。夏生まれだった彼女は、冬の小物をもらうことが少ないと嘆いていたからこれにしたんだ。スーパーで会った彼女は、見たことないマフラーを巻いていた。プラネタリウムをつける。もっと進もうと春の星座にしたら、しし座が綺麗に見えた。そういえばしし座だったなぁと、思い出しながらちょっと泣いた。さっきもらったティッシュがどこにあるかは、もう思い出せなかった。
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