書き出し「何が悪いかはお前が考えろ」

「僕の家から花火は見えない」

書き出し:ラジオネーム せとか

作:蓮見翔

声優:川島→新井良平

   山田、天使→今川柊稀




僕を見るなり閻魔様は地獄行きの電車に僕を投げ入れた。

川島「おかしい。僕は天国行きじゃないのか?」

死後一日目、なぜか地獄行きとなってしまった僕を乗せ、
電車はゆっくりと動き出した。

 

グレーの車体の電車は僕を乗せてゆっくり暗闇を走り続けている。
白でも黒でもないってことは、天国行きに使われることもあるんだろうか。
天国に行けたとしても移動は電車なのか。
隣の車両は女性専用車両だった。
地獄に行くような男が乗る電車だから、そりゃあるよなぁとか思ってたら、
電車が止まってドアが開いた。
乗って来た何人かの中に、見覚えのある顔を見つけた。

 

川島「山田?」

山田「あれ、川島?」

川島「久しぶり」

山田「こんなとこで会うとは」

川島「たしかに。喜んでいいのかわかんないな」

山田「どっから乗ってんの?」

川島「東中野」

山田「東中野で人って死ぬの?」

川島「死ぬよ別に。お前どこから乗って来たのこれ」

山田「荻窪」

川島「あんな穏やかな街でどうやって死ぬんだよ」

 

あの世の総武線で幼馴染と再会するとは。
山田が荻窪から乗って来たということはこの電車は三鷹に向かっている。
地獄って三鷹にあったんだ。

 

川島「荻窪にも閻魔様いたの?」

山田「うん。え、東中野にもいたの?」

川島「いたよ。新人だったっぽくて奥にもう一人いた」

山田「新しくなったりすることあるんだ閻魔って」

川島「駅にいるんだな」

山田「あの世、電車メインすぎない?」

川島「たしかに。地方で死んだ人どうしてんだろ」

山田「さすがに飛行機とかあんじゃないの」

川島「俺もっとワープとかできるんだと思ってたわ」

山田「天国の中にはあんじゃない?」

川島「あぁなるほどな。確かに電車って、天国行きそうなやつも地獄行きそうなやつも乗ってたもんな」

山田「まぁ、全部そうだけど」

 

電車は少しずつ三鷹に近づいていく。
これはあとから聞いた話だが、
天国と地獄は綺麗に二つに分かれているわけではなく、
ホルスタイン柄みたいになっているらしい。
そう考えると近場の移動で大人数いっきに動かせる電車が重宝されるのもわからなくはない。

 

山田「子供助けようとして車道でたら引かれちゃってさ」

川島「え、それで地獄行く?」

山田「いやぁおかしいよな、なんでなんだろう」

川島「俺も、銀行強盗取り押さえて打たれて死んじゃってさ」

山田「えぇ?絶対天国じゃない?」

川島「だろ?おかしいよな絶対」

 

電車が吉祥寺で停まった。
奥にわずかに明かりが見える。
キラリナだろうか。
最近駅の中めちゃくちゃ甘い匂いしてたなぁとか思ってたら、光の中から天使が現れた。

天使「あ、あなた」

山田「はい」

天使「あなた降りてください天国いけます」

 

吉祥寺で乗り換えられるらしい、
天国に向かう電車は、京王井の頭線だったんだ。

 

川島「ちょっと待ってくださいなんでですか」

天使「あの世って、結構電車なんです。」

川島「は?」

山田「なんか、ごめんな」

川島「ちょっと待ってよなんで俺だけ地獄なの」

天使「何が悪いかは、お前が考えろ」

 

山田が電車を降りてドアが閉まる。
暗闇の手前の窓に、一人残った自分が写っている。

なんで俺だけ地獄なんだ。
いらつきで、組んでた足の貧乏ゆすりが止まらなかった。



毎週水曜日26時~
JFN系列で生放送中
蓮見翔のAuDee CONNECT

公式X @Wed_AC

【書き出し】
脚本や小説において、読み手を物語の世界へグッと引き込む「最初の一行」。
つまり「書き出し」がとても重要です。
このコーナーでは、リスナーの皆さんから、
お題の作品タイトルに合う「書き出し」を募集しています。
毎月大賞に選ばれた投稿は、蓮見翔がその続きを執筆し、
完成した作品は、プロの声優の皆さんに朗読してもらっています。


現在募集中の書き出しは
「つくったのは誰?」

この作品タイトルに合う「書き出し」を募集しています。
メッセージはこちらから!